2023年09月02日

地図で知る富士市の災害(防災講話スライド)

 勤務校で9月1日の防災訓練に変わる防災講話ということで、全校生徒向けにお話しした講話のスライドをアップします。Zoomで各教室をつないで講話の後、簡単な話し合い活動をしてもらいました。

 「一人一台端末」の時代、当初は600人の生徒に「地理院地図」を動かしてもらおうと画策したのですが、さすがにそれは厳しそうなので、こちらで地図を用意しました。2年生より下の学年は「地理総合」で全員触れる機会があります。

 一口に「災害に備えよう」と言いますが、防災訓練の定番である地震や津波は滅多に来るものではありません。一方で、風水害は頻繁に起こるようになりました。「地震を取るか、風水害を取るか?」の二択ではなく、普段の風水害のリスクや大雨が降った時の情報に対する付き合い方を見直していくことで、より大きな、よりレアな災害に対しても落ち着いて対応できるのではないかと個人的には考えています。スライドにも書きましたが、以下に「正常性のバイアス」を克服するかが、防災教育の大切な使命なのではないかと思っています。

 特に我々富士山の麓はなぜか大きな台風の被害が少なく、「富士山がきっと何かガードしているんじゃないか?」と、もっともらしく言う大人もいます。ただ、改めて歴史をひもといてみますと、富士市の田子ノ浦地域は、津波・高潮の常襲地域です。田子の浦港が昭和36年に作られ、掘り込み式の港湾の建設で、河口の水深が深くなったため、高潮の被害は減っていますが、開港以降も高潮は発生していますし、地震による大津波はまだ起きていませんので、どうなるかはわかりません。また、富士川、潤井川、沼川の三大「暴れ川」がおとなしくなった後、低地が宅地開発され、道路や大型小売店舗の駐車場は舗装されル一方で、農業用の水路が住宅街を走り、下水道網が巡らされるようになった結果、日常的に内水氾濫に見舞われる地域も出てきました。もはや「浸るか、浸らないか?」ではなく、「浸水深はどこまで行くか?」が関心事になっている状況です。

  必修科目となった「地理総合」でも、防災に関する単元がありますが、ある程度具体的な地域を事例として取り上げたり、身の回りの地域でない場所でも、他山の石となる場所のケーススタディをする必要があるように思います。

 感想を読む限り、サブタイトルに掲げた「自分のアタマで考えるヒント」は提供できたのではないかと思います。
 この講話をきっかけに、探究活動で防災を取り上げてくれる生徒が増えたらよいなと思っています。
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2023年01月08日

「津波日本一の町」で考えたこと:二宮書店 地理月報2023年1月号

 あけましておめでとうございます。

 今年1つ目の刊行物として、二宮書店さんの「地理月報」で連載中の「地理の授業にGIS」の記事をアップします。
「高校で地理が再必修化になる!」「GISと防災教育が柱になるらしい!」ということで、原稿の学習指導要領の骨子が固まった5年前から書き続けてきた連載です。「シーズン1」を13回掲載した後、指導書につくDVDのボーナストラックとして何本か、そして2019年から「シーズン2」が始まり、第11回(紙面は年4回刊行)で終了となりました。

 「身近な”もしも”だけでなく、遠くのリアルを教材に」

をコンセプトに、実際に大きな災害があった場所(歴史的なものも含めて)にできる限り足を運び、GISで描いた主題図や地形図を組み合わせながらレポートしてきました。北海道から沖縄まで、一応日本一周を達成しましたので、ひとまずここで締めとさせていただいた次第です。

 日本一周の締めに選んだのは、四国です。編集部から「四国がまだ出てない」との話を聞き、いくつか候補がありましたが、高校の先生が書く(描く)高校の先生向けの読み物の締めとして、「世界津波の日 高校生サミット」の話題は外せないでしょうということになり、取り上げさせてもらいました。心に残るイベントでしたが、実施から5年弱が経ち、客観的な視点から現状と課題が書く(地図化する)ことができ、よい締めになったのではないかと自負しています。

 新型コロナウイルスが終息して、生徒を津波サミットや巡検などに連れ出すことができたらと思います。
 本文にもある通り、「防災教育にGIS」が2023年中に書籍化されます。当ブログにも記事はアーカイブされていますが、
日本一周分、改めて眺めていただけると幸いです。

 足掛け10年近く「高校の地理の必修化」「地理総合なる新科目はどうなるのか?」とあちこちで書いたり発言してまいりましたが、いよいよ今年(4月から)自ら地理総合を担当することになります。当初とは異なり、無線LANもあれば一人一台端末も常備された環境(ただしインストールされたGISソフトは使えず、基本Webのみ)の中でどんな教材を作り、シェアできるのか、このブログを使って示していければと思います。

今年もよろしくお願いします。

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本文はこちらから gappo568.pdf
posted by いとちり at 18:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 防災 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年11月30日

予想された洪水・想定外の水害(地理月報2021/11月号)

 二宮書店の高校向け冊子「地理月報の連載記事です。

 コロナ禍の前に倉敷で取材をしたものです。

 浸水域のまっただ中にあり、実際に浸水した土地で家を再建されているところがたくさん見られましたが、それは決して非難されるものではないと私は考えます。再び洪水に遭うかもしれないリスクと、住み慣れた土地で生活基盤を再建したいという希望、土地の利便性、強靱化される治水対策とを天秤に掛けたうえでの決断であり、そうした方々が作るコミュニティが、災害経験をどのようにして後生に伝えていくかを考えていかなければいけません。そのために高校の地理教育で学ぶ知識や技能(特にGISを用いた作図)をどう役立てていくのか、地元の教育関係者だけでなく、あらゆる方面からの支援が必要です。

 「近くの”もしも”よりも遠くの”リアル”から学ぼう」は、この連載の基本コンセプトですが、学術的研究や報道資料も豊富で、非常に教材化しやすい場所ではないかと思います。
 取材に協力いただいた皆様、ありがとうございました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。
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2021年05月09日

島をつなぎ,川を分かつ輪中(地理月報562号)

 二宮書店の高校教員向けリーフレット「地理月報」の最新号(2021年5月15日号)掲載の連載「いとちりの防災教育にGIS」シリーズの第8回目です。
 三重県桑名市に出かけた時の「輪中」に関する記事ですが、もう一つの目玉として「地理院地図」に「今昔マップタイル」を載せた作図になっています。
 「今昔マップ」「地理院地図」ともに、来年度から実施される必修科目「地理総合」の教科書にも取り上げられているWeb GISの定番ですが、帯に短したすきに長しのところがありました。「地理院地図」は、地形図をはじめ、様々な地図を画面上で見られて立体化や書き込みができますが、過去の地図が見られない、「今昔マップ」は現在と過去の比較や空中写真を見ることができますが、地図に書き込みができません。「今昔マップ」に書き込みができれば・・・というニーズ(自分自身が何よりありました)に応えるべく、地理院地図の「タイルマップ読み込み」機能を使うことで、本文にあるような旧版地図への書き込みデータを現在の地図に反映(その逆も)することができました。
 詳しい手順については、当ブログの過去記事をご覧ください。

これは便利!「地理院地図」上で「今昔マップ」を見る方法(いとちり:2020年2月24日)

http://itochiriback.seesaa.net/article/473733439.html

失敗しない!地理院地図で色つき旧版地形図を描く(いとちり:2020年2月26日)







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本文(PDF)gappo562.pdf

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2021年04月29日

大火災から下町を守れ(防災GIS2-7)

 二宮書店の教員向け冊子「地理月報」の561号(2021年4月15日)掲載の連載記事です。
 新型コロナウイルスが蔓延する前、東京の学会に出た際にフィールドワークした内容です。
 関東大震災の史実と現在の街並みから、東京東部の火災対策について地図を描いてみました。

 高校で必修となる「地理総合」の教科書が各社出そろい始め、「GIS」と「防災」の単元の記述が大幅に増えたことが確認できます。ただ、この連載の冒頭で述べたとおり、「GIS」も「防災」も、特定の単元で扱ったら終わりではなく、「地域が抱えるリスクや課題」に常にアンテナを張り、自分で「地図化」「可視化」する姿勢を持てるような授業を、あるいは課外学習をしていきたいものです。

 年度替わりの異動で所属校が「静岡県立裾野高校」から「富士東高校」に替わりました。
 8年ぶりの地元勤務であり、教育実習以来、約25年ぶりの母校勤務でもあります。
 「高校地理再必修化」の節目を、地理教員としての第一歩を踏み出した場所で迎えるのも何かの縁かと思っています。富士山の南麓から、現場目線の情報を引き続き発進して参りますので、どうぞよろしくお願いします。

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【PDFファイルはこちら】
posted by いとちり at 19:55| Comment(0) | 防災 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする