2013年08月25日

改良版「iPad デジタル地図帳」(日本地理教育学会@佐賀大学)

 日本地理教育学会で発表をしました。

 前の記事にも書きましたが、佐賀県では、来年度から、県立高校に入学する生徒にタブレットパソコン(Windows)を購入させます。佐賀市の西、ICT教育や公設民営のデジタル図書館などの取り組みで知られる武雄市では、小中学校にiPadを使った授業を積極的に展開しています。予稿を書いた段階では、iPad地図帳の最初の本格投入は佐賀県かな?と思っていたので、いささか残念ではあります。ただ、宮城県で学校を挙げてiPadの導入を検討されている学校もあると聞いていますし、「地図のアップロード」や「情報の付与」等、「震災記憶地図」に関する講習会を早いうちに東北で行いたいとも思っています。
 

  「デジタル地図帳」は、いつでも使えるツールでありますが、それだけを使えばすべてが済む道具ではありません。あくまで、「紙や手作業では難しい(面倒くさい)」ことをする場合に利用するのがベストです。手でやったほうが早い(わかりやすい)時は手でやるべきだと思っています。

 例えば、いくら野外巡検で地図をじっくり見せたいからといって、地形図やらなんやら20種類くらいの地図をカラー印刷して、人数分配布するなんてことは絶対に出来ません。また、「どことどこと、どこの国を(アナログ=色鉛筆で)塗りつぶしなさい(この作業は不滅です)という時、先生がチョークで地図を描くよりも、言葉を尽くすよりも、あらかじめ塗られた地図を提示して
「この通りに塗りなさい」としたほうが楽です。

  どんなにデジタルが普及しても、「手を動かして紙に記録を残す」という学習法は、ちょっとやそっとでは揺るがないと思います。「紙?、デジタルか?」の不毛な争いをやめて、(大部分をしめる)アナログ的な学習を上手にサポートする道具として、生かして行きたいですし、何でもかんでも「デジタル万能」という悪しき風潮からは一線を引いて今後の改良を進めていきたいと思います。

  いくら音楽配信が全盛の時代でも、人はライブの音楽を聴きに行きますし、DJは、自分がいかにたくさんの音楽を知り、ストックしているかを誇張するかのように、レコードが詰まったバッグを持ってクラブに入ります。デジタル教科書やらなんやらがどんなに普及しても、手で塗り、ノートに貼り、ストックする文化は消えないと思います。・・・・電子辞書の普及で「辞書が真っ黒になるほどに勉強」なんてのはすっかり少数派になってしまいましたけど。

 ・・・といったような用途について、発表後、いろんな方と議論を深めることができました。まだまだ「珍しい道具」としてのカテゴリをでていませんが(自分自身も、授業に投入できてないですし)、近い将来、どこにでもあるツールになっていることを期待します。
 

 今日、出勤したらワークショップの主催者様から礼状を頂きました。現地でお世話になった方々にもお便りを出しているところです。また近いうちに宮城県に行く機会があればなと思います。
 



【当日配布した資料です】
summry20130825.pdf 
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2013年03月30日

タブレット端末を用いた「デジタル地図帳」システムの試作(日本地理学会春季学術大会)

presen01.jpg 埼玉県熊谷市の立正大学に行ってきました。

 
 「吉原高校教諭」としての最後の仕事です。
 “デジタル地図帳は、第二の電子辞書になる”との信念のもと、先生が自由自在に地図データを配信・蓄積できるような仕組みを考えてみました。

 携帯音楽プレーヤーの登場で、私たちは数百曲、数千曲の音楽を普通にポケットに入れて持ち歩くようになりました。「デジタル地図帳」は、何十枚でも、何百枚でも、古い地図でも新しい地図でも、持ち歩けるようになります。そういうイメージです。「第二の電子辞書」というよりも、「地図版iPod」と言ったほうがより近いかもしれません。

 携帯音楽プレーヤーに入れる音楽の入手方法は様々ですね。CDでもいいですし、音楽配信サイトでもよいです。有料版もあり、無料のものもある。「デジタル地図帳」は市販の地図帳を電子化したものではありません。それもあるでしょうけど、もっともっと膨大なコンテンツが既にネット上に(データとして)あるのですから、それを地図にしてストックしてしまおうという目論見です。

 今、多くの高校生はスマートフォンを持っています。
 「GIS=パソコン実習」、「授業にGIS=マウスを握って地図を描いたり分析したり」にいつまでもこだわっていると、地理教育復活の絶好のチャンスを失います。

 「パソコン室を思うように使わせてもらえない」「ソフトをインストールさせてもらえない」「そもそも、GISを学んだり、教える時間はありゃしない」とお嘆きの先生方、発想を変えてみませんか?「学校には学校のGIS」があっていいはずです。いつまでも大学のGIS実習のミニチュアを浸透させようとしてもどだい無理な話なのです。

 GISというツールをより自然に、毎日のように溶け込ませるように、私は日々いろんな工夫をしてきました。90分授業で何回にも分けて講じられる「大学のGIS」「50分完結」「地理の教科書準拠」に改め、1本数万円(その前は数十万〜数百万円)する「標準的なソフト」から「ほぼ無料」のソフト中心に等々。でも、これからは、「普通教室で」「2分間完結」のGISがあってもいいのではないかと思います。GISは、つまるところ「システム」なので、ソフトやハード組み合わせや使い方はもっと自由であるべきです。

 近いうちに、政府か自治体の決断で、各学校にタブレットが「降ってくる」かもしれません(あまりいいことだとは思っていませんが)。メーカー主導のデジタル教科書礼賛論も、ベストだとは思いません。一部の熱心な「学校外の」方々のリードで「無用の長物」にならないためにも、現場サイドから「ここまではできるが、ここが限界」等の事例をどんどん訴えるべきだと思いますし、デジタル教科書論に対して、「地理」の立場からの発言が増えていってほしいと思います。

【スライド】
 
 
 





【プレゼンで流した動画】

利用シーン1:普通教室編



利用シーン2:野外調査編(オフライン地図アプリ「ふじぶらり」)




【リンク】
 実験で作ったデータ頒布サイト。Google Earthが入ったタブレット端末で「デジタル地図帳」を体験できます。
@新潟県高校地理部会 夏の巡検(2012)用デジタル地図帳サイト
http://www.itochiri.jp/nagaokabosai/
A富士山-レーニア山共同教材開発プロジェクト用デジタル地図帳サイト
http://www.itochiri.jp/ipadmapi/
Bふじぶらり
実験アプリにつき、2013年5月末までの限定公開です。以後、アプリは使えますが、新規ダウンロードができなくなります。ダウンロードはお早めに。
http://fujiburari.com/

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2013年01月19日

学会発表予告:「デジタル地図帳」作ってみました

 まだ日程は確定していませんが、3月末(30日か31日)の日本地理学会(立正大学熊谷キャンパス)に予稿を提出しましたので、一足先にアップします。

 メーカーさん主導になっている「デジタル教科書」と違い、「デジタル地図帳」は、ユーザー主導、学校の先生が必要に応じて必要な地図をアップして、教材として使えることを目指しています。報告する2つのアプリ(Google Earthとちずぶらり)は、まだ「帯に短し」状態ではありますが、今後タブレットの普及が進む中で「本命」になってくるのではと見ています。
  教材作成のノウハウ、アップと共有の方法を含めて論文化するつもりです。tablet001.jpg
  お時間ありましたら、是非お越しくださいませ。

○PDFファイルイル

100018.pdf 

 【学会の公式サイト】
http://www.ajg.or.jp/meetiing/2013spring.html
 
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2012年10月08日

「毎日使うGIS」教育GIS研究会(日本地理学会)

 神戸大学で行われた、研究会に行ってきました。
 

 次の学習指導要領の改訂で、必修化科目として検討がなされている「地理基礎」「歴史基礎」に、GIS(地理情報システム)をどのように展開していくかがテーマです。
 

  ″GIS=生徒にパソコンを操作させる実習”と狭義に捉えるのではなく、生徒に地名や地理的な位置および概念=基礎を着実に身につけてもらための「システム」として捉えて、プロジェクタで提示するGIS,50分完結で行う作業と、先週行った授業の中身を編集してプレゼンしました。

  参加された先生からは、「GISを使うこと、生徒にパソコンを使わせることが”ハレ”の場になってる。伊藤が行っている実践は、GISを”ケ”の場に持ち込もうとしていることだが、なかなか容易なことではないだろうし、それが生徒にとっても教師にとってもベストなことか、十分に検証する必要があるだろう」とのコメントをいただきました。
  確かに、パワポでの提示は最初は珍しいのですが、毎日やっているとワンパターン化していきますし、カッコに穴埋めしていくことでどこまで思考力が高まっているか、よく考えなければならなところもあります。ただ、50分という限られた時間の中で「白地図による作業で地理的な感覚を養う」(地理Bも世界史Aも)ことが今年のコンセプトであり、板書して、ノートを取らせる時間を短縮して、作業の時間を確保するという「システム」の中では、今のところこれがベストなのではないかと思っています(週2時間ずつしかないですし)。
 
 
 

 同時に行われた事例報告では、Google Earthを使った歴史学習の教材を提案する学生グループの発表がありました。以前見たときよりもパワーアップしており、歴史の資料集のようでした。学校の回線がいまいち不安定なのと、提示の方法(大画面に提示しつつ、生徒が手元のPCなりタブレットなりでグリグリと動かせるのがベストだと思います)を工夫すれば、「世界史」「日本史」は大化けするのではないかと思いました。
  それこそ予算をとって「実験」をやってみたいところです。グループに1台のノートPCやiPad(教室に10台ぐらい)と、携帯回線のモデム(2台ぐらい)でシステムを組めば、それほどお金をかけずにできるような気もします。「デジタル教科書」といった大それたものでないにしても、
「Google Earthで作るデジタル地図帳&資料集」は、割と早く実現しそうな気がします。
 
 
 

 秋はいろいろと立て込むので、あまり学会に出てこないのですが、現在進行形の授業をやったそばから発表にするのもなかなか新鮮な体験でした(疲れましたが)。先週、鳥取からお見えになった先生に授業の写真を撮っていただいたので、それをそのまま使った次第です。態勢を整えて、また明日から授業、そして中間テストです。

【プレゼンスライド】
giswork20121007.pdf(PDF:3.3MB)
【レジュメ】
paper2012oct07.pdf

test.jpg

【リンク】
 
「地理基礎」「歴史基礎」ってなんですか?という疑問を解決する(私も含めて)のリンクを貼ります。
 理科基礎(来年から実施)の次は、たぶん「地理基礎」「歴史基礎」が来ます。

○地理基礎・歴史基礎・2科目新設必修化に関する日本学術会議の提言
(2011年8月14日・日本地理学会のサイトより)
http://www.ajg.or.jp/ajg/2011/08/2-1.html

○2012.11.02 研究開発校での研究授業が行われます。
(文部科学省のサイトより。「地理基礎」「歴史基礎」の授業の両方をライブで見られるようです。強く勧められたんで、これは行かなきゃなと思っています)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kenkyu/htm/08_news/1307416.htm
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2012年08月21日

「防災教育とGIS−高校地理が担うもの」新潟県高校教育研究会地歴部会地理分科会

 東京駅から上越新幹線で1時間半。新潟県の長岡市にいます。

 新潟県の地理の高校の先生方の研修会におじゃまして、2日間の研修&巡検です。
 初日のテーマは「地理教育と防災教育とGIS」・・・・来年から実施される新しい学習指導要領の地理分野の「目玉」(私は地理復活の”旗艦単元”と呼んでます)である2大テーマにどう取り組んでいくかという「講演」をさせてもらいました。ずいぶん前からこのお話を頂いていて、せっかくパソコン室でお話するのだからということで、地元の災害に関する資料をたくさんいただいて(平成23年7月の大水害を中心に)、それらを使ってGIS体験をして頂く時間をセットにしてみました。

 ハザードマップから始まって、5mメッシュによる標高区分図、地形図、Youtube,現地の写真、災害時の写真等、あらゆる「レイヤ」を作って、Google Earth上で重ねてみようという試み。普段、Google Earthをインストールしていないパソコンに(制限がかかっているので、プログラムをUSB⇒デスクトップにおいて実行)研修会専用に作ったWebサイト(著作権等クリアしていないので、外部からのリンクは貼っていません)からデータをダウンロードしていただいて開くという作業を行ってみました。

 易しいGIS(と自分では思っている)Google Earthですが、やはり慣れないと難しいようで、皆さん苦戦されていました。2学期早々に、同じような授業をやろうと思っているので、勘所を掴む上で何かと参考になりました。いろんなデータを重ねて行って、そこから何を読み取るか、何を読み取って欲しいか、しっかりとしたワークシートが必要だなと改めて思いました。

 内水氾濫を起こした「柿川」は、本当に小さな川で、「え!?この川が?」と思えるくらいですが、水害は相当なものだったようです。また、「長岡大空襲」の際には、挟み撃ちをするように爆弾が落とされ、行き場を失った人達が、飛び込んで多数亡くなった場所でもあるそうです。


 「まずは、防災の単元の内容の充実」
 
「GISと防災は、あらゆる単元の中に織り込むことができる」
 
  というのが、講演の趣旨です。一口に単元の充実といっても様々です。いくら地元だからといって、被災の記憶が生々しいうちに教材化を試みるのはなかなか厳しいようです。新潟中越地震でも、肉親を亡くした生徒や、フラッシュバックを起こす生徒もいるので、取り扱いは慎重にされているそうです。むしろ歴史上の災害や、別の場所の災害を使ってケーススタディを作るべきなのかもしれません。ただ、今は授業で扱うのは難しくても、将来に向けて資料を整理し、アーカーイブする必要はあるなと思いました。
 
 プレゼンスライドと、公開に支障なさそうなkmzファイルをアップします。
 2日目は、午前中がMANDARAの実習、午後から防災をテーマにした巡検です。

site001.jpg
データ頒布用特設サイト。リンクはクローズです。
nagaoka2.jpg

長岡駅前の標高(2m刻みで着色)をiPadのGoogle Earthで開いたところ。
パソコンよりも操作が楽、かつきれいです。

【ダウンロード】
●プレゼンスライド(2.4MB)
nagaoka20120820.pdf

●KMZファイル(Google Earth展開用”zip”ファイルとして認識される場合は、右クリック⇒プロパティでファイルの拡張子を”kmz”に変えていただくか、ファイルを解凍して、その中の”doc.kml"をGoogle Earthで開いてください。)
nagaokastation.kmz 長岡駅前の標高区分図

flood-movie.kmz 洪水時の様子(Youtubeの公開動画にリンクを貼ってあります)
nagaokapopdata.kmz 
長岡市の国勢調査区別人口(円の大きさで表現)
setai.kmz 長岡市の国勢調査区別世帯数(階級区分図)
ronen.kmz 新潟県の市町村別老年人口と老年人口率(塗り分けと棒グラフで表現)

【リンク】
平成23年7月新潟・福島豪雨による被害状況(第5報)
http://www.pref.niigata.lg.jp/nagaoka_seibi/1330549262850.html
新潟県庁のサイト。この報告書の中の7ページ、柿川の洪水対策図(浸水時の到達範囲が明記)の画像に位置合わせをしてkmzファイルとして閲覧していただきました。許諾を得られれば、kmzを公開します。

posted by いとちり at 05:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 学会発表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする