東北大学で行われた日本地理学会で発表してきました。
地理Aの「自然環境と防災」の実践ですが、2022年度から実施される新必修科目「地理総合」(仮称)を見越して、地形図の読図指導に全く自信のない先生サポート(もちろん、自身のある先生はより分かりやすく効率的に)するための教材としてGISの成果を生かしていこうという趣旨です。
地形図を読めない子を、読めるように指導するのは大変です。しかも使うのは市販の地形図ではなく白黒の「地形図プリント」のみ。限られた時間の中で、結局教えるのは「尾根線、谷線」や「土地利用」といったもので、後は「センターに出るぞ」で済ましてきた観もあります。また、「防災」のジャンルも、基本的に身近な地域を対象として、「ここが危ないぞ」「怖いぞ」「家建てちゃダメだぞ」的な教訓めいた指導になりがちです。そのあたりをきっちりと批判したうえで、次の新科目につなげていかないと、必修地理総合って、結局は地理Aの焼き直しなんでしょ?という解釈になってしまいます。
「自然環境と防災」は、地理A独自の単元ですが、その内容は身近な場所の危ないところ探しではありません。今回の実践も、「ほぼ無料、50分完結、教科書準拠」の原則に従って教科書で取り上げている雲仙・普賢岳の災害を取り上げました。「近くのもしも」ではなく、「遠くのリアル」。そして何より「地図から考える」「地図から読み取れることのみを使って議論を組み立てる」(憶測や直感、ネット的知識などの知ったかぶりで被災地を論じない)ことを意識して教材を作りました。
地形図が読めない、読み方を指導できない人が教壇に立って大丈夫か?高校で地理を履修していない人が地理を教えられるのか?という危惧を持つ人が(特に地理のプロパーに)多くいます。しかし、それは嘆くべき事実ではなく、避けられない現実です。また、高校で地理を履修しなかった(させてもらえなかった)生徒がいるという現実を20年以上にわたって放置してきた責任の一端は、研究者だけでなく、現場の教員にもあることを忘れてはいけません。「地理は、センターで使う理系の科目だから・・・・」「文系は日本史か世界史。これ、常識でしょ」と指導し、後進を育ててこなかった(特に進学校の)先生も責任の一端があります。
素性はどうあれ、分からないのならば分かるようにするしかない。便利な道具を使って「ああ、地形図ってこういうことか。防災関係の発問って、こんなことを振ればいいのか」と自分も生徒も理解してもらって、そこからOJTで技量を高めてもらっていくしかありません。そのための教材は、実施5年前の今から作っていかなければなりません。
「読図」や「作図」の指導は、地形図だけではありません。地図帳をどう使うか、白地図をどう使うか、ノートに地図をどう描かせるか、地名や用語はどこまで、どう覚えてもらうか、そして個々の生徒の取り組みや到達度をどう評価するか、興味を持って「ツボ」にはまった生徒をどう引き立てて、地域に関わらせていくか、「地理の先生」として要求される技能は多々あります。それら一つ一つを見える化、言語化して伝えていくことが必要です。
危惧するところでは、そうしたステップを一切踏まずに「必修の地理?ああ、世界情勢と時事問題を面白おかしく語っておけばいいんだ」と、ろくに教科書も地図も使わずに我流で勝負してしまう先生、そして一緒に組む相手にもそれを押し通してしまう先生が蔓延してしまうところです。「防災」も、センセーショナルな映像を見せて、ちょこっと背景を説明して、「いつか、自分達も・・・・」なんて危険を煽る、あるいはメディアの焼き直しで「だから行政は・・・」みたいな感じの犯人探しの授業があちこちで行われるかもしれません。現に公民科の「現代社会」がそんな感じになってしまっている場面を多々目にしてきました。一頃よりだいぶ少なくなったと思いますが、「教科書は使わない」「指導書なんか、見もしない」「学習指導要領なんて、新採の時以来見たこともない」なんていうベテランが陥りやすい「我流の罠」です。
そうならないために、何はともあれ「地図を使う」「地図で教える」ことは徹底していくべきだと思いますし、若手がうっかりそういう残念な先生と組んでしまったとき、自分の頭で考え、自分で教材をアレンジできるように、現物を用意し、手が届くところに届ける仕組みを今から作っておくべきだと思います。
プレゼンの後、そうした理想を浸透させる(質問された方の言葉を借りればW闘う”)の担い手は誰か?と聞かれました。「自分は地理のプロパーだ」と思っている先生方がまとまることは第一だと思いますし、教育の内容と質を一定に保つ教育行政上の施策も大事だと思います。ただ、一番浸透しやすく、影響力があるのはそれ以上に教科書会社が出す出版物(特に資料集と地図帳、関連教材)だと思います。
今、某社の指導書の附属DVD教材集に原稿を書いていますが、教科書や資料集、社が出すサポート教材を組織的に作っていくことが何より重要かと思います。内容は全く同じでも、個人がこうやってブログに載せたり学会で発表するのと出版物で出るのとでは浸透力が違います。書く側も、「編集のプロ」の冷静かつ客観的な指摘を受けてブラッシュアップできます。今、「教科書」の書き手は圧倒的に大学の先生が多くを占めていますが、「資料集」や「教材集」の編さんに現場の先生方が積極的に関わるようにして、
来たるべき必修・地理に備えていくべきではないかと思います。
また「地形図」以外の素材も作りつつ、提案していく機会があると思いますが、今回やってみて感じたことは、「大きい地図を囲むのは楽しい」ということです。タブレットは、あればあるに越したことはないですが、虫眼鏡みたいなものなので、なければないで、プロジェクタで代用はききます。むしろ放っておくと「おもちゃ」になる危険性もありますので、ケースバイケースかなと思いました。大きい地図を囲んでお互いに教えあいながら地図を読み、その上で各自のノートやワークシートに言語化して行く・・・・「アナログか、デジタルか?」の二者択一ではなく、アナログな作業を円滑に進めるためのデジタル(で作った教材)でいいんじゃないかと思いました。また、「アクティブラーニングをしよう」と肩ひじ張るのではなく、こういう共同作業的なことが結果的にアクティブになっていればいいんじゃないかと思っています。
いろいろ応用が利くと思いますので、単元を変えて、対象を変えて、また試してみたいと思います。
【予稿】