月刊「地理」2013年3月号の特集「GISで地理を学ぼう」に寄稿しました。
4月から完全実施となる新しい学習指導要領で、正式に登場する「地理情報システム」(GIS)。その有用性はもう20年近く前から言われているのですが、ちっとも教育現場に浸透しないのはなぜでしょうか?
あちこちで言い散らかしていることですが、「用途が極めて限定されている」(そういうものだと思われている)ことだと思います。「パソコン教室で、パソコンを使って地図を描いたり、読み取って話し合いをする」ことに縛られている限り、GISが普及することはないと思います。
学校の授業は、「自転車の乗り方」を習うようなものです。乗れないうちはコケてばかりでちっとも面白くありませんし、誰かが乗れるようになってスイスイ先に行けるようになると焦ります。まずは乗れるようになり、だんだん遠くに行けるようになって初めて面白くなります。
ICTを使って授業を行う事は、ちょうどそうした自転車の集団にほんのちょっとだけ「エンジン」(電動アシストのモーターでもいいです)をつけてやるくらいが理想です。自転車に乗る感覚で、より遠くに、より速く到達することで新たな視野が広がります。でもスピードが出てくると転んだときに痛いですし、それなりに守らなければならない交通ルールも覚えなければいけませんから、必要に応じて勉強しなければなりません。
ただ、人数分のエンジンを用意するお金も、ガソリンもない学校がほとんどです。そういう場合は、取り合えず先生がバイクに乗って先導するだけで、結構面白いレッスンができます。
先導といっても、高速でかっ飛ばして生徒の遥か先を行っても意味がありません。実は、ゆっくりと、自転車のペースにあわせて走る方が難しいんです。このあたりの呼吸は、場数をこなさなければ身につきません(私もまだいまいち呼吸がわかっていない面もあります)。
翻って、いわゆる世間一般の地理の先生が考える「GIS」は、教習所で自動車の乗り方を教えるような常態にとどまってしまっています。「これがギア、これがブレーキ、これがハンドルね。じゃあ、走ってみよう」
と言っても、生徒が普段握っているハンドルやブレーキとは似ても似つかぬシロモノではないでしょうか。うまく走れなくて当たり前、あちこちでエンストがおき、走り出したもののどこに行っていいのかわかりません。
たった一人の教官が、教習車の助手席を乗り換え乗り換え手とり足取り・・・これでは行き先も、走り方のノウハウもあったもんじゃありません。「GISには興味があるが、自分でやるのはちょっと・・・」という先生が多いのは、当たり前と言えば当たり前なのです。しかも、教習所(=パソコン室)はいつでも使えるわけではないですから、ほんの少し、体験的にGISに触れたとしても、次の教習はいつになるのかわからない。もしかしたら、それが最初で最後の教習になることだってありえます。
自転車乗りの子供に自動車の乗り方を教えて懲りた挙句、モータースポーツの面白さを伝えないのはもったいないことです。別に常にバイクにまたがせなくても、普段の道で上手に「モーターのある世界」を見せていれば、「自分も免許を取ってやってみようかな」という子は必ず出てきます。そうしたら、目的地を決めてあげて、エンジンのかけ方から手ほどきしてあげればいいのです。
また長々と講釈を綴ってしまいましたが、タイトルに示した「毎日使うGIS」というのはそういうことです。立ち上げの期間であったこの2年間(高2で地理を学び始めてセンター試験を終えるまでの1クール)は、とにかく意地でも毎時間プロジェクタを使って授業をすることにこだわりすぎ、肩に力が入りすぎた感が拭えません。自転車で走れば十分なところ、あるいは自転車でないと狭くて通れない場所(より細かな、丁寧な指導が必要なところ)までバイクで走ってしまった結果、ちょっと道を荒らしてしまったかな?という反省点もありますし、エンジンが温まるまでの時間を上手に使い切れなかったという反省もあります。
「パソコン実習」のための著書を上梓してからの2年間、普通教室でのGISにこだわり続けた結果、大きな賞(国土交通大臣賞)をいただくこともできました。いい機会に実践を整理する機会が頂けてなによりでした。また店を広げる場所が変わるかもしれませんが、新たなコンセプトで、より汎用性の高いメソッドを作っていけたらと思います。
伊藤 智章(2013):「地理A・地理BにおけるGIS利用−普通教室で「毎日使う」GIS」,地理58-3,46~51頁。
【原稿ファイルはこちら】
chiri2013-3.pdf
2013年02月27日
2012年05月03日
「震災記憶地図」(月刊地理:2012年5月号)カラーPDF版
たくさんのアクセスとダウンロードありがとうございます。
スキャナの設定がいまいちで、せっかくきれいなiPadのアプリの紹介がうまく伝わっていないような気がしましたので、編集部に送った原稿を縦書きにして組みなおしてみました。iPadで読んでいただけるとなおよろしいかと思います。
【PDFファイル】
shinsai-text.pdf
震災記憶地図―月刊「地理」2012年5月号
古今書院の月刊「地理」のコーナー、「東日本大震災掲示板」にiPhone/iPadアプリ、「震災記憶図」の紹介記事を書きました。国際地図学会学校GIS教育専門部会の取り組みです。
アプリ「震災記憶地図」はこちらからダウンロードできます。あわせてどうぞ。
http://eq.stroly.com/about
【本文はこちら】(PDF345kb)
shinsaikioku.pdf
2011年04月04日
新連載「評伝・守屋荒美雄」
月刊「地理」2011年4月号より、短期集中連載を始めました。
教科書や地図帳でおなじみの、「帝国書院」の創業者、守屋荒美雄(もりや すさびお:1872〜1938)の伝記です。氏については、当ブログでも取り上げてまいりましたが、改めてフィールドワークを試み、「土地」にこだわって綴ります。
連載は、生誕から少年期、上京して教師となり、一念発起して「起業」を志すまでのダイジェスト版です。本編は、出版目指してせっせと取材を続けています。
お陰様で好評です。「元気が出た」「鼓舞された」というお便りも頂きました。近頃、「地理教育は危機的だ」というのがあいさつ代わりのようになっています。電気(GIS)だろうが伝記だろうが総動員して、せっせと地理を元気にする(・・・なんて、韻を踏んでみました)ことが、この101歳違いの大大大先輩に対して私ができる事かなと勝手に考えています。
「いとちりポータル」の方に、PDFファイルをアップしました。例によってサイドストーリーもまた載せて行こうと思います。それにしても、「神田神保町」というのは、わくわくする街ですね。
教科書や地図帳でおなじみの、「帝国書院」の創業者、守屋荒美雄(もりや すさびお:1872〜1938)の伝記です。氏については、当ブログでも取り上げてまいりましたが、改めてフィールドワークを試み、「土地」にこだわって綴ります。
連載は、生誕から少年期、上京して教師となり、一念発起して「起業」を志すまでのダイジェスト版です。本編は、出版目指してせっせと取材を続けています。
お陰様で好評です。「元気が出た」「鼓舞された」というお便りも頂きました。近頃、「地理教育は危機的だ」というのがあいさつ代わりのようになっています。電気(GIS)だろうが伝記だろうが総動員して、せっせと地理を元気にする(・・・なんて、韻を踏んでみました)ことが、この101歳違いの大大大先輩に対して私ができる事かなと勝手に考えています。
「いとちりポータル」の方に、PDFファイルをアップしました。例によってサイドストーリーもまた載せて行こうと思います。それにしても、「神田神保町」というのは、わくわくする街ですね。
2011年01月24日
視覚障害者のための地図集
今月号の月刊『地理』で、京都の障害児学校の元校長先生が書いた、視覚障害者向けの地図の記事を大変興味深く読みました。
明治初期から京都では視覚障害者のための学校が自主運営され、桜の板に彫り込んだ京都の市街図や「触る地球儀」などが作られ、現在も大切に保管されているそうです。
21世紀の現在、これらの職人芸的な技術は、デジタルに対応し、作りたい場所の地図を簡単に作れるようになっています。ちょっと調べてみましたが、この世界、なかなか奥が深いですね。
【リンク】
●国土地理院の「蝕地図原稿作成システム」というサービスがあります。
http://zgate.gsi.go.jp/shokuchizu/
地形図を、「立体コピー機」(そういう機械があるんですね)にかけるための原稿のフォーマットに替えるシステムです。
●実際の利用法について紹介した動画がYoutubeにありました。地形図でなくても作れます。
http://www.youtube.com/watch?v=2Jna7v9Arok
●このニュースで取り上げられている研究室です。
新潟大学工学部福祉人間工学科渡辺研究室
http://vips.eng.niigata-u.ac.jp/
●視覚障害者用GPS歩行支援システム
静岡県立大の先生と、静岡市内の会社が共同で開発しました。あれま、身近なところで開発されているんですね。
http://www.extra.co.jp/sense/gpsnavi.html
開発発表会の模様は、こちらの新聞記事で。
http://mainichi.jp/universalon/report/archive/news/2010/20100615mog00m040023000c.html
●論文:「視覚障害者用地図教材の開発」(柏倉 秀克・青松 利明:2010)
http://www.ohkagakuen-u.ac.jp/tosho/kenkyukiyo/n12/01_kasiwakura.pdf
●「地理月報」の連載でお世話になっている二宮書店さんは、「点字地図帳」を出しています。
http://www.ninomiyashoten.co.jp/pc/atlas/braille_atlas/
●京都府立盲学校資料室のサイトには、雑誌で紹介されていた教材(文化財に近いですが)のカラー写真付目録がありました。28番が凸版京町地図、29番が地球儀です。その他の地図や模型類は、「地理」誌に写真とともに紹介されています。
http://www.kyoto-be.ne.jp/mou-s/siryousitsu/11page.html
●コラム「蝕地図の世界」
利用者の立場からのコメント。「地図太郎」でおなじみの、東京カートグラフィック社の広報誌に、京都ライトハウスの元所長さんが寄稿しています。
明治初期から京都では視覚障害者のための学校が自主運営され、桜の板に彫り込んだ京都の市街図や「触る地球儀」などが作られ、現在も大切に保管されているそうです。
21世紀の現在、これらの職人芸的な技術は、デジタルに対応し、作りたい場所の地図を簡単に作れるようになっています。ちょっと調べてみましたが、この世界、なかなか奥が深いですね。
【リンク】
●国土地理院の「蝕地図原稿作成システム」というサービスがあります。
http://zgate.gsi.go.jp/shokuchizu/
地形図を、「立体コピー機」(そういう機械があるんですね)にかけるための原稿のフォーマットに替えるシステムです。
●実際の利用法について紹介した動画がYoutubeにありました。地形図でなくても作れます。
http://www.youtube.com/watch?v=2Jna7v9Arok
●このニュースで取り上げられている研究室です。
新潟大学工学部福祉人間工学科渡辺研究室
http://vips.eng.niigata-u.ac.jp/
●視覚障害者用GPS歩行支援システム
静岡県立大の先生と、静岡市内の会社が共同で開発しました。あれま、身近なところで開発されているんですね。
http://www.extra.co.jp/sense/gpsnavi.html
開発発表会の模様は、こちらの新聞記事で。
http://mainichi.jp/universalon/report/archive/news/2010/20100615mog00m040023000c.html
●論文:「視覚障害者用地図教材の開発」(柏倉 秀克・青松 利明:2010)
http://www.ohkagakuen-u.ac.jp/tosho/kenkyukiyo/n12/01_kasiwakura.pdf
●「地理月報」の連載でお世話になっている二宮書店さんは、「点字地図帳」を出しています。
http://www.ninomiyashoten.co.jp/pc/atlas/braille_atlas/
●京都府立盲学校資料室のサイトには、雑誌で紹介されていた教材(文化財に近いですが)のカラー写真付目録がありました。28番が凸版京町地図、29番が地球儀です。その他の地図や模型類は、「地理」誌に写真とともに紹介されています。
http://www.kyoto-be.ne.jp/mou-s/siryousitsu/11page.html
●コラム「蝕地図の世界」
利用者の立場からのコメント。「地図太郎」でおなじみの、東京カートグラフィック社の広報誌に、京都ライトハウスの元所長さんが寄稿しています。
http://www.tcgmap.jp/company/gakusai/04/175.html
●蝕地図とは直接関係ないですが、立体地図模型をオーダーメイドで作ってくれる会社です。
立体モデル絵葉書なども作ってくれます。
株式会社トラストシステム
http://www.trust-system.co.jp/