
4月から完全実施となる新しい学習指導要領で、正式に登場する「地理情報システム」(GIS)。その有用性はもう20年近く前から言われているのですが、ちっとも教育現場に浸透しないのはなぜでしょうか?
あちこちで言い散らかしていることですが、「用途が極めて限定されている」(そういうものだと思われている)ことだと思います。「パソコン教室で、パソコンを使って地図を描いたり、読み取って話し合いをする」ことに縛られている限り、GISが普及することはないと思います。
学校の授業は、「自転車の乗り方」を習うようなものです。乗れないうちはコケてばかりでちっとも面白くありませんし、誰かが乗れるようになってスイスイ先に行けるようになると焦ります。まずは乗れるようになり、だんだん遠くに行けるようになって初めて面白くなります。
ICTを使って授業を行う事は、ちょうどそうした自転車の集団にほんのちょっとだけ「エンジン」(電動アシストのモーターでもいいです)をつけてやるくらいが理想です。自転車に乗る感覚で、より遠くに、より速く到達することで新たな視野が広がります。でもスピードが出てくると転んだときに痛いですし、それなりに守らなければならない交通ルールも覚えなければいけませんから、必要に応じて勉強しなければなりません。
ただ、人数分のエンジンを用意するお金も、ガソリンもない学校がほとんどです。そういう場合は、取り合えず先生がバイクに乗って先導するだけで、結構面白いレッスンができます。
先導といっても、高速でかっ飛ばして生徒の遥か先を行っても意味がありません。実は、ゆっくりと、自転車のペースにあわせて走る方が難しいんです。このあたりの呼吸は、場数をこなさなければ身につきません(私もまだいまいち呼吸がわかっていない面もあります)。
翻って、いわゆる世間一般の地理の先生が考える「GIS」は、教習所で自動車の乗り方を教えるような常態にとどまってしまっています。「これがギア、これがブレーキ、これがハンドルね。じゃあ、走ってみよう」
と言っても、生徒が普段握っているハンドルやブレーキとは似ても似つかぬシロモノではないでしょうか。うまく走れなくて当たり前、あちこちでエンストがおき、走り出したもののどこに行っていいのかわかりません。
たった一人の教官が、教習車の助手席を乗り換え乗り換え手とり足取り・・・これでは行き先も、走り方のノウハウもあったもんじゃありません。「GISには興味があるが、自分でやるのはちょっと・・・」という先生が多いのは、当たり前と言えば当たり前なのです。しかも、教習所(=パソコン室)はいつでも使えるわけではないですから、ほんの少し、体験的にGISに触れたとしても、次の教習はいつになるのかわからない。もしかしたら、それが最初で最後の教習になることだってありえます。
自転車乗りの子供に自動車の乗り方を教えて懲りた挙句、モータースポーツの面白さを伝えないのはもったいないことです。別に常にバイクにまたがせなくても、普段の道で上手に「モーターのある世界」を見せていれば、「自分も免許を取ってやってみようかな」という子は必ず出てきます。そうしたら、目的地を決めてあげて、エンジンのかけ方から手ほどきしてあげればいいのです。
また長々と講釈を綴ってしまいましたが、タイトルに示した「毎日使うGIS」というのはそういうことです。立ち上げの期間であったこの2年間(高2で地理を学び始めてセンター試験を終えるまでの1クール)は、とにかく意地でも毎時間プロジェクタを使って授業をすることにこだわりすぎ、肩に力が入りすぎた感が拭えません。自転車で走れば十分なところ、あるいは自転車でないと狭くて通れない場所(より細かな、丁寧な指導が必要なところ)までバイクで走ってしまった結果、ちょっと道を荒らしてしまったかな?という反省点もありますし、エンジンが温まるまでの時間を上手に使い切れなかったという反省もあります。
「パソコン実習」のための著書を上梓してからの2年間、普通教室でのGISにこだわり続けた結果、大きな賞(国土交通大臣賞)をいただくこともできました。いい機会に実践を整理する機会が頂けてなによりでした。また店を広げる場所が変わるかもしれませんが、新たなコンセプトで、より汎用性の高いメソッドを作っていけたらと思います。
伊藤 智章(2013):「地理A・地理BにおけるGIS利用−普通教室で「毎日使う」GIS」,地理58-3,46~51頁。
【原稿ファイルはこちら】
chiri2013-3.pdf