2013年02月11日

「ハーバード進学」時代の教師論

    受験シーズンがいよいよ最終コーナーに入りつつありますが、日本の高校生の学力最高峰グループの動向も随分様変わりしつつあるようです。例えばこちら。
東大が「滑り止め」になる ハーバード大狙う高校生が増加中(J-cast News 2013.2.9)
 

 「進研ゼミ」でお馴染みのベネッセ・コーポレーションが、ハーバード大学をはじめとしたアメリカの上位大学への進学準備を前提とした塾を開設し、着々と成果を挙げている様子が紹介されています。
⇒(「ルートH」http://rt-h.jp/

 あるいはこちら。今からえーっと、15年前の我が「勤務校」(1年だけ常勤講師をさせてもらいました)。
立命館宇治高校IB(インターナショナル・バカロレア)コース

 
  私が勤務していた時は、宇治橋の近くの古い古い校舎の時で、職員会議で校地移転と、「英語で授業を行う、なんかとんでもなくすごい科を作るらしい」というくらいにしか聞いていなかったのですが、今や押しも押されぬスーパーコースになっています。

 あと、我が地元のここ。「イマージョン・コース」が今年20周年なんだそうです。
加藤学園暁秀中学・高等学校

 ここから本題に入りますが、そう遠くない将来、特にトップ層では外国への進学を普通に考える生徒が普通になる時代が出てくるのではないかと思います。その時、「メイドイン・ジャパン」「ティーチ・オン・ジャパン」な我々普通の先生は一体どう立ち向かっていくべきなのかということを考えたくなるのです。
 
 

 体罰をめぐる擁護(?)論があるように、日本の教育界(先生だけでなく、熱心な保護者やOBを含めて)では、世界から見て随分と異質なものが残っていると思います。勉強を戦争に例えたり、山のような宿題を課したり、年に1回の選択式テストで進路が事実上決定してしまったり、部活があったりなどなどです。

 「進路指導」(特に受験指導)は、東大を頂点とする受験システムの中である程度「勝って」これた教員が、あまり代わり映えのしないシステムを初めて体験する生徒達に向かって、圧倒的な情報量の差を武器に「誘導」することが進められてきました。いわゆる「いい大学」を出て、「何度も卒業生を送り出してきた」経験豊かな先生に対して親は安心して「指導」を任せることができますし、若い担任は、経験不足を自らのフレッシュな「成功体験」、あるいは「ITスキル」で補いながら生徒を鼓舞して行けばよかったのです。最近はAO入試とか推薦入試とかで受験生の意欲や活動実績を評価する入試も増えていますが、それはそれで、だいたい「大学の先生が喜びそうなこと」は熟知していますので、そんなに困ることはありません。

 ところが、自分の受け持ちの生徒がいきなり「アメリカのIBリーグに行きたい」とか言い出したらどうでしょうか?ハーバードを出て日本の高校教師をしてますという先生にはお目にかかったことがありませんし、「なんかテレビとかに出ていて、ムチャクチャ頭の良さそうな人が世界中から集まってくる大学」ぐらいのイメージはありますが、じゃあ何をどう指導しましょう?となると、全くもってわかりません。
 まあ、本人や保護者は、一部のスーパー学校を除いては、そうなったら専門の業者にお任せするか、自分でノウハウを考えるかなんでしょう。でも、
「じゃあ、頑張ってね。終わり」
でいいのでしょうか?

 もちろん、行ったこともない大学のことを知ったかぶって云々言ったり、日本的な人生設計についてどうこう口を挟んでもしょうがないです(その子は卒業後、日本に帰ってくるとは限らないですし)。かといって、全く「Out of my Business」というのも困ります。そもそも、ハーバードって、そんなにものすごいところなのか・・・・?

 ハーバード大学は、地理情報システム(GIS)に熱心に取り組んでいる大学で、学生の頃、客員教授がこられていたりしました。調べてみたら、日本の若い研究者の方が留学されて、現地の様子をブログで書かれていました。
○GIS@ハーバード
http://gisresearchatharvard.blogspot.jp/

その中で目をひいたのが、夏の特別セッション(外部者も申し込めば聴講できる)でしょうか。「地理解析センター」主催の「ジオリファレンス・ワークショップ」
なる催しの記事です。
http://gisresearchatharvard.blogspot.jp/2008/03/blog-post_22.html

 詳しいことは記事を読んでいただくとして、面白いなと思ったのは、「使える地理データとは如何なるものか?」を、参加者がそれぞれのバックグラウンドから述べてやいのやいの言い合うという企画です。きっとそれぞれ“帯に短し”と思っている点があり、解決策を他分野から得ようというのではないかと思います。
 日本では、「GISワークショップ」といえば、「GISソフトの使い方講習会」になりがちで、私も受講生として、あるいは講師として行きますけど、こういう企画はあまり聞いたことがありません。この記事を見たり、
あるいはちょっと前に面白く読んだ「ハーバード白熱日本史教室」(新潮新書)などを見て「ハーバードって、なんか面白いところだな」とは思っています。

 血のにじむような努力をしてハーバードに入っても、そこで何か面白いことができなければなんの意味もないでしょうし、また、我々凡人教員も暇とお金があればちょいとボストンに飛んでいって(!)サマーセミナーなりワークショップに出て、つたない英語で思うことを述べてくればいいわけですし、U-stやSkypeでつながったっていいわけです。・・・・というか、そういうところでしか
「プロの留学業者」と渡り合う方法はないでしょうし、「グローバルな時代に旧態依然とした教育しかできない日本の先生たち」という、これまた旧態依然としたマスコミや学校批判をメシの種にしている評論家の皆さんに対抗する手段はないかと思います。

 と、非現実的な事を言っていても始まりません。手始めに、自分の教材や実践を短い英語で書き留めて、
しかるべきところに出してみてはと思います。私は地理教育ですが、こんな新しい電子ジャーナルを見つけました。

Review of International Geographical Education Online(http://www.rigeo.org/)
 
 読んで字のごとくの電子ジャーナルです。2011年創刊で年3号。今のところ、どこにも「購読料」とか、「掲載料」といった文字は見当たりません。出すのも、読むのもタダ(だと思います)。

 雑誌の狙いとして、「とにかく、地理の先生に実践発表の場と、公式のペーパーを書くトレーニングの機会を提供する」(意訳)ことをうたっています。執筆者はまさにワールドワイド、レフリーのボードメンバー(編集委員)も各大陸ごとに割り振られていて、アジアの担当は、シンガポールの大学の先生と、国際地理オリンピック日本実行委員長の、筑波大学の井田先生が務められています。サイトの右下の「Visiter Map」を見ても、常に世界中からウオッチされているのがわかります。また、非英語圏の方々がガンガン書かれていて(論文だけでなくて、査読の経過までもがオープンにされています)、ちょっと競争心が掻き立てられます。

・・・と、いうわけで、話があちこちに飛びましたが、日本の高校から外国の大学にポンポン生徒が進学する時代、日本の高校の先生も、ポンポン外に成果を発表することでそれに応えられたらなあと思いました。
まとまりのない、半分リンク集のような雑文ではありますが、一応「ネタは売るほどある」(と思う)ので、出荷できたらなあと思いました。
 
 
posted by いとちり at 21:46| Comment(0) | TrackBack(0) | いとちりのコンセプト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月21日

「ポスト・センター試験」時代を考える。

 今年もセンター試験が終わりました。

 昨年、地歴の問題配布ミスがあり、せっかく「そもそも、センター試験って・・・・。」という議論が盛り上がったかのように見えましたが、その後何事もなかったかの如く時が過ぎ、今年は「トラブルがないかどうか」ということだけに注目が集まって、やっぱりトラブルがあってそれがつつかれています。
 自分も、成人式とセンター試験に関しては、シーズンだけ「なんとかならないものかなあ」と思いながら、結局忘れるので、また思い出せるように、頭の整理のつもりで書きたいと思います。

(1)高校3年間の学びの成果が「間違い探しクイズ」でよいのか?

 
地歴に関して定番なのが、「誤っているものを選びなさい」といった文章題です。「ひっかけ」にあったり、「つぶして」行ったり、テクニカルなことが要求されます。「その先」が全くありません。表やグラフの国を虫食いにして、それを当てられるようにして「地図や統計を読む力を見る」と言えるのでしょうか?

 お米を食べて、産地が当てられたり、吸い物を飲んで出汁を当てられたり、「化学調味料を使っていない料理を選ぶ」すごい舌を持っている人がいたとします。でも、その人は「グルメ評論家」になれるかもしれませんけど、
「おいしい料理の献立を自分で考えて、素材を集めて料理する」職人を選ぶ試験としてそれが適当と言えるのでしょうか?「言える」という人がいたとしても、それは「割と高い確率で、そこそこの料理人が採用できるからそうしている」現状にあぐらをかいているだけなのではないでしょうか?

(2)教員は、「残り80万人」のケアをしっかりやっていると言えるのか?

 
2013年の「18歳人口」は、約120万人ちょっと、大学進学率は50%ぐらい、センター試験受験者は40万人強です。
http://benesse.jp/berd/center/open/dai/between/2010/04/01toku_54_b.html
 「問題の持ち帰り」でクローズアップされたように、既に推薦入試等で進学先が決まっているけれども、「お試し」や「お義理」で受験する生徒もいますので、本気で「受験のために」センター試験を受けに来ている人はもっと少なくなります。

 それでも、センター試験の翌日には、新聞各紙の全面を使って問題が掲載され、高校や予備校の先生はこぞって「応援」に出て、さも「国民的行事」のようになっていますが、実際には、センター試験を利用して大学を受ける人自体がマイノリティになっている事も忘れてはいけません。

 
「ここは、センターにもよく出るところだから」は、ついつい使いたくなる常套句です。しかし、それを聞いて「ほうほう」と思う人は、学校によりますが、そんなに多くはありません。しかし、学校の先生になる人の多くは、センター試験を受験してきて、得点率を換算して、判定を見てという経験を「普通に」してきた人達ですから、そういう感覚からなかなか抜け出せないのかもしれません。

  「センター試験は関係ない」高校生は着実に増えています。ただ、いくら「受験に関係ない」からといって、学習指導要領を逸脱した好き勝手な内容で授業をするつもりはさらさらありません。むしろ、関係ないからこそ、教科書の内容をきっちりと丁寧に教えるべきだと思っています。そうした方法論とか、実践の蓄積とか、一生懸命やっている先生もいるんですがどうもあまり表には出づらいのが現状です。

 (3)「センター依存症」がもたらした履修機会の逸失

 
「地理は理系のセンター科目」という常識と、長年採用を絞ってきた結果、今多くの高校では、文系で「地理」を履修することができません。文系で「地理」が選択肢にない学校がたくさんあります。その結果、高校で地理を勉強したことがないまま、「地理学科」に入る人も増えています。3月に「地理の講師がほしい」とお願いしても、「該当がいない」というケースも増えてきました。やったことのない科目をやれと言われるわけですから、不安があるのも当然です。学校に1人いるかどうかの「地理」の先生は、「理系の必修」科目の地理を持つので手一杯。しかも、「センターのための」内容(自分はそういうことは、「補講」でやるように切
り分けてはいますけど)。どうも自分たちで自分の首を絞め続けているように思えてなりません。

 「日本地理教育学会」という学会が、毎年「センター試験の講評」を行います。匿名とはいえ、同じ地理学、地理教育関係者が作った問題に対して、うまいのまずいの言うのもどうなのかなと思って見ていますけど、
「そもそも、地理教育にとって、センター試験というものは有益なのか否か」という議論にはお目にかかったことはありません(ならば、自分で書きなさいと言われるかもしれませんが)。

 賛成にせよ反対にせよ、この体制はしばらく続くと思います(誰だって、自分の時、あるいは自分の子供の時に入試制度がガラリと変わるのをよしとしない)。それでも、「ポスト・センター試験後」の世界を見つつ(転勤によってそういうところにポンと飛び込むこともあるわけですし)、目の前の教材を充実させていこうと思います。
posted by いとちり at 18:53| Comment(0) | TrackBack(0) | いとちりのコンセプト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月25日

パソコン教室への「ソフトインストール禁止」考

  新潟県の高校の先生の研修会でGISソフトの研修をさせてもらったのですが、準備において大変困ったことがありました。それは、会場となった学校のパソコン室は、一切「ソフトのインストール禁止」であるということです。

 当初、「防災教育とGIS」がテーマでしたので、「地図太郎」を使って標高区分図を描いてもらおうと思っていたのですが(イベント用に、無料でライセンスを貸してくれる制度があります)、それもかなわず、ではMANDARAとGoogle Earthでということになり(USBメモリからの起動が可能です)挑んだのですが、マニュアルを作った最新版のMANDARAではUSB起動をするには制限があり、少し古いMANDARAを動かしため、研修内容がずいぶんちぐはぐ(最新版で作った地図ファイルを読んでくれなかったりして、私もかなり焦りました)。

 我が勤務校も、基本的に「インストール禁止」でありまして、ご丁寧にも何かインストールしても、再起動するたびにきれいさっぱり消し去ってくれるソフトまで入っています。もちろん、WordやEXCELなどはその外に置いてあるのですが、消去から除外させるには、納入業者を呼んでこなければならないため、実質「インストールはできない」状態にあります。

 新しい学習指導要領(高校では来年度の入学生から順次実施)で、地理に「GIS」の利用が初めて明記されます。また、地理以外でも、情報、商業、農業、工業などの各専門科目、総合学習でもデジタル地図を使う機会は増えてくるはずです。でも、今のままの体制だと、せいぜい使えるのはWebサイト上の地図、Google Mapあたりを使うしかなくなってしまいます。

  一方で「学校の情報化の推進」をうたいつつ、片一方で
「ソフトのインストールはするな」なんてのも矛盾しています。どのレベルでの判断なのでしょうか?文部科学省の文章を見ると、むしろ「必要なソフトはどんどん入れなさい」「先生が、工夫してアプリや教材を作るのもどんどんやりなさい」と見て取れます。ですから、各都道府県の教育委員会(の担当者)あるいは、学校の管理職や担当者のレベルで、「情報セキュリティ対策」を徹底したいがために「オールorナッシング」な考え方になっているようです。

 ですから、「訳のわかんないフリーソフト」を入れてくれるなと、パソコン室の管理者にストップをくらったり、
「県がそう言っているからダメです」という回答でインストールが阻まれた場合(その「県」の公にしている教育の情報化指針では、もちろんそんなこと書いていません)、「あなた、情報教育指針を読んでませんね」とやり返してやればよいのです。

  それでも、何かトラブルがあったとき(フリーのGISソフトを入れることで起きたトラブルという可能性は少ないのですが)、最前線で対応に当たらなければならないのは、担当の先生です。多くは、ちょっとパソコンが詳しくて人が良いというだけで任されているような方なので、真っ向から喧嘩するのも申し訳ないです。そもそもそんな大事な仕事を、専門の事務職や外部委託等にかけずに、一介の教員に授業の合間にやらせる行政も悪いのですから、変な摩擦を起こす前に、文科省なりにきっちりと
「行政指導」してもらう必要があるでしょう。

  繰り返しますが、「学習指導要領にGISの利用が明記された」という事実は、地理教育にとっても、情報教育の立場からも画期的なことであると同時に、重い責任をともなうことなのです。既に、若者の多くはスマホ等を通じて日常的に地図や位置情報サービスのお世話になっていますし、複雑怪奇な国際情勢や資源問題を理解し、統計資料や映像を使いこなす上で、パソコンを使ったGISの概念の習得やデータの加工といった作業は必須科目になっています。載せたからにはしっかりとした環境整備をして欲しいものです。

【資料】
「教育の情報化に関する手引」について
(文部科学省:2010年10月29日)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1259413.htm

 新しい学習指導要領の実施にあたって、「情報教育」に関する箇所についての文科省の見解。各都道府県、市町村の教育委員会は、これに沿って条件整備を行う。
  教育用ソフトの利用や、インストールについての記載は、第8章「学校におけるICT環境整備」に詳しく述べられている(禁止どころか奨励している)。
posted by いとちり at 21:50| Comment(0) | TrackBack(0) | いとちりのコンセプト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月27日

Web「地理月報」

  教科書会社、二宮書店のWebサイトがリニューアルされました。     隔月刊のリーフレット「地理月報」も専用サイトが設けられ、今のところ紙版の内容を再構成したものを掲載していますが、今後Web版独自の連載を進めていくそうです。  一昨年から裏表紙に「いとちり」シリーズで連載させてもらっていますが「Googel Earthで地形を楽しむ」「防災教育にGIS」の二本柱で、Web版の連載を盛り立ててまいります   http://www.ninomiyashoten.co.jp/web_chirigeppo 【リンク】  Google Earthで地形を楽しむ」のバックナンバーは、「いとちりポータル」からご覧いただけます。 http://www.itochiri.jp/ninomiya/ninomiya01.html 523l1.jpg

posted by いとちり at 13:59| Comment(0) | TrackBack(0) | いとちりのコンセプト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月20日

Facebookへようこそ

 今年に入ってからFacebookなるものを始めて3か月がたちました。Twitterはすぐに頓挫しましたが、こちらは何とか慣れてきました。
 
 私の個人ページには、地理のこと、GISのこと、今やっている街の地図アプリのこと等々、「ブログの素」になる話題がアップされています。
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私が主査をやらせてもらっている「日本国際地図学会学校GIS教育専門部会」では、Facebookページを立ち上げて、「震災記憶地図」プロジェクトの最新情報を提供しています。
https://www.facebook.com/jcaschoolGIS

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また、「教育GISフォーラム」では、Facebookグループを立ち上げています。会員・非会員に関わらず、教育とGISに関する話題が飛び交っています。大学生・大学院生の方も多いのが特徴です。
https://www.facebook.com/profile.php?id=100003212246452#!/groups/350146111684388/

Facebookアカウントをお持ちの方、どうぞよろしくお願いします。お持ちでない方、この機会に初めてみてはいかがでしょうか。
posted by いとちり at 09:59| Comment(1) | TrackBack(0) | いとちりのコンセプト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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