2017年12月07日

必修化に向けた高校地理の改革(立命館地理学29号)

   昨年12月に、立命館大学で行った講演を論文化しました。

 必修地理の実施に向けての障害となっているもの(人)は何か(誰か)?との問いに対し、高校で地理を習ってこなかった若手以上に、「地理とは特別な科目である」と自負してやまないプロパー達なのではないか?という、ややもすると挑発的な内容です。

 高校で地理を履修してこなかった世代に対する過度な力量不足の懸念を示す地理プロパー教員は多くいます。また、GISやアクティブ・ラーニングなど、新たな手法に対する拒否反応を示す地理教員も少なくありません。よく言えば職人的であり、悪く言えば排他的な雰囲気のままでは、必修を機に新たに地理教育を極めてみようという若手の成長の機会を奪いかねません。

 ただ、忘れてはならないのは、大量の「高校地理・未履修」世代を生み出したのは、他ならぬ現場の教員達であるということです。本来は「選択科目」なのですから、すべての生徒に選択の余地を与えるべきですし、世界史and日本史or地理だけでなく、世界史and日本史and地理というような組み合わせが出来るようにするべきだったのですが、各教員の「専門性」という現場の論理で踏みにじられ、30年近くにわたって選択の機会が奪われてきたこと、地理のプロパー教員も少なからずそれに加担してきたことを忘れてはなりません。
 「地理は、理系のセンター科目」なんて意識がまかり通り、地理プロパー(特に進学校の教員)がそれを是として来てしまったオールドプロパー達。彼らが残したツケを、次の世代が払っていかなければならないのです。

 これからの地理教育を背負っていく若手教員は、自身の履修歴に関係なく、OJTで技術を身に着ける必要があります。そしてそうした若者たちをリードするのが40代〜50代のミドル層です(必修で日・地・世・地を学んだ最後の世代であり、次の新必修地理を学ぶ子供達の親の世代=私もその一人)。

 団塊ジュニア世代は、同世代人口は前後に比べて非常に多いのですが、教員採用の数が極度に絞られたため、教育現場においては多数派を成していません。また、若いころは上にオールド・プロパーがたくさんいたおかげで、なかなか専門の科目を十分に担当させてもらえないなどの辛酸を舐めてきました。だからこそオールマイティに何でも担当できるという強みもありますし、「ノン・プロパー」が、一から勉強して知識を蓄えて行くことの大変さとやりがいを肌で感じて来た世代でもあります。「大学受験は地理ではないんです・・・」「専攻は地理学ではないのだけど・・・」と謙遜されつつも、すごい実践をされている先生方は、これからの必修化時代をけん引する「ニュー・プロパー」と言えるでしょう。下手なオールド・プロパーよりも、よほど頼れます。

 教員の採用数が増え、若い教員が増える一方で、定年延長ともいえる再任用制度が定着する中で、超ベテランと若手が組んで授業をする機会が増えています。地理だけでなく、歴史の分野においても、新指導要領の目指す方向についていけない(ついて行こうともしない)教員にどう対応して行くのかは大きな課題です。私自身は、単なる精神論、教育論に頼るのではなく、「誰でも使える、本格的な教材」の開発し、共有していく事が、有効な策である考えています。そのためのデジタル地図であり、タブレット端末であり、グループワークであり、野外活動ではないかと思うのです。

 また、意欲的な教員の個人的な頑張りには限界がありますし、教員間のネットワークも、各県の研究会が機能しているところはよいですが、そうでないところも少なくありません。そんな時、地理学科を置いている大学のOB/OG人脈、若い教員と現役学生のつながりなど、改めて見直されるべきですし、大学側もそうしたネットワークの構築に時間と費用をもっとかけるべきではないかと思いました。

 高校地理の必修化が再開される地理教育の2022年問題を議論する上での端緒になればと思います。
伊藤 智章(2017)「必修化に向けた高校地理の改革−現場の実践と地理学教室への期待」、
立命館地理学29,pp.11−19.

【リンク】
2016年12月3日、立命館大学で行われた講演要旨とスライドはこちら

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2017年03月31日

タブレットコンピューターを用いた「デジタル地図帳」システムの構築―沖縄修学旅行の研修教材の制作を中心に―(E-journal GEO)

   

 日本地理学会の電子機関誌「E-journal GEO」に掲載されました。

 タブレット・コンピューターを使った「デジタル地図帳」システムは、これまで色々なところで口頭発表し、雑誌記事で書いてきましたが、ようやく査読論文となりました。自分自身も含めて、これから関連研究を行っていく上での定番、スタンダードとなる論文になったのではないかと自負しています。

 本文中にもありますが、この教材の最大のウリはオフライン稼働であること。それに加えてクローズドなデータ共有ができること、さらに私の実践では当たり前といえば当たり前ですが、端末の導入費以外はほぼ無料であることです。
 そう遠くない将来、高校の教育現場にタブレットが普通に入ってきます。学校の備品としてのタブレットを使って、無線LAN設備のない教室や野外でも自由に使える地図帳、ハザードマップや新聞記事など、ネットにアップして使うには著作権的にも肖像権的にも厳しいような資料を使って授業を進める上で、このシステムは極めて有効です。

 アプリ側で、年間数千円の課金をするようになりましたが、Avenza Mapsというアプリは、
iOSでも、Android端末でも動きます。Android版での実験はまだ行っていませんが、GPS機能付きの端末はAndroidの方が安いので、普及に向けたテストをまた行っていきたいと思っています。

 また、Wifi版のiPadなど、GPSがついていない端末でどのようなことが可能か(一応、Wifiルーターやスマホを持っていれば、位置情報は示せるはずです)、検討を重ねて見たいと思います。・・・いくらGPS付きのiPad(Simフリー版のセルラーモデル)がよいと言っても、既にWifi版がある学校や、そういう意見が通らないケースも考えられますので。

 沖縄タイムス社をはじめ、現地の皆様には本当にお世話になりました。査読意見をもらって、せっせと直して行き来している間に2年が過ぎ、もう1回別の生徒達を修学旅行に連れて行く(今度は沖縄市、コザ地区バージョンをやりました)ことになりましたが、新たな機能を試してみた結果など、報告にまとめて行きたいと思います。

【書誌】
伊藤 智章(2016)「タブレットコンピューターを用いた『デジタル地図帳』システムの構築―沖縄修学旅行の研修教材の政策を中心に―」,e-journal Geo 11(2),pp.516-525.
【本文】(電子版論文へのリンク)

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E-journal GEO
Vol. 11 (2016) No. 2 p. 516-525

E-

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2017年03月23日

防災教育にGIS(二宮書店:地理月報)一括公開

  教科書会社の「二宮書店」が、高校教員向けに出している定期刊行のリーフレット、「地図月報」の裏表紙や、教科書の附属DVD-ROMで細々と連載してきた「いとちりの防災教育にGIS」が、「フィールド編(」実際に現場に行ってGIS主題図と比較のポイントを探る)が10回に達しました。「備える防災」のアイデアに、GISを使って何かわかりやすい提示ができないだろうか、常にお考えの同業者の皆様、一般の皆様に送ります。

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教材編:第1回 ハザードマップを自作する―基盤地図情報の利用―


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教材編:第2回 ハザードマップの教材化―イメージオーバーレイ―

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教材編3:写真を地図で整理する―ジオタグの利用―


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フィールド編1:雪に挑む190 万都市̶北海道札幌市


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フィールド編2:iPad でつなぐ「あの時」の記憶̶新潟県長岡市

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フィールド編3:水の恵みと土石流̶静岡県富士市

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ィールド編4:リスクをチャンスに変える「坂の街」̶広島県尾道市

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フィールド編5:御土居(おどい)̶都市の治水と都市再編̶ 京都市


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フィールド編6:「天地返し」̶神奈川県山北町
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フィールド編7:地図に刻まれた災害の跡を読む̶雲仙普賢岳
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フィールド編8:被災地の記憶を地図にアーカイブする̶宮城県多賀城市
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フィールド編9:「川だけ地図」で戦後史を読む̶沖縄県那覇市
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フィールド編10:土石流の教訓を教材化するには̶広島市安佐南区
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2017年01月05日

「読図」から「活図」へ(「地図ジャーナル」2017年1月号)

 あけましておめでとうございます。本年1本目は、掲載記事の紹介です。

 一般社団法人地図調整技術協会という業界団体の機関誌である「地図ジャーナル」から依頼を頂き、寄稿しました。新春号の特集が「地図と教育」ということで、国土地理院の担当官、科学警察研究所の特任研究官(小学生向け防犯マップ)、藤沢市の「ミセス地図太郎」東先生、そして高校代表(?)ということで、昨年やってきたことをぎゅっと詰め込んでみました。

 沖縄の「iPadフィールドワーク」は、ようやく論文が受理され、間もなく出版(電子版)の予定。今月末には2度目の本隊引率で、沖縄市(コザ地区)で行います。また、3月18日(土曜日)に那覇市の沖縄タイムスビルでワークショップ(&ミニフィールドワーク)を行う予定です(詳細は間もなくアナウンスさせていただきます)。

 本年もよろしくお願いします。
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伊藤 智章(2017):「読図」から「活図」へ―変わる地理教育と教師の役割,地図ジャーナル(180),12〜13頁.
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2016年05月09日

「デジタル地形図」を授業に生かす(山川出版:「地理の研究」 2016年4月号)

 山川出版の教員向け論集、「地理の研究」です。
 「地図・古地図」特集ということで、デジタル方面の現状と展望を書かせてもらいました。
 ちょっとスキャンが荒いですが、PDFにしました。

 今や懐かしの前任校時代の「デカ地形図」(現任校でも作ってますが)から、最新の「記事×地図アプリ」@沖縄まで、あまりお金をかけずに教材化できるものをカタログのように並べてみました。終わりの方でちょこっとだけ、意見を述べさせてもらいました。「古き良き”紙の手作業か、最新の”デジタルか?」という二者択一的な議論。何はともあれここから抜け出さないと行けないなあと常々思う次第です。

 紙で見ようが画面で見ようが、地形図は地形図(あえて原語に忠実にとるならば「地勢図」)です。等高線やら地図記号やら、テクニカルなところにばかりこだわらずに、「地図から考える」「地域の特色や仮説を地図に絡めて述べる」とはどういうことか、それを教えるという事はどういうことか、「プロパー」でない人でも納得づくで教えられるようにカリキュラムなり実践例を積んでいく必要があるやに思います。
【引用文献用書誌】
伊藤智章(2016):「デジタル地図」を授業に生かす,歴史と地理(693),13〜21頁.

posted by いとちり at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする