2019年12月01日

新刊発売記念7 「イギリスのワイナリー」−Web教材との連携を視野に

 新刊『地図化すると世界が見えてくる』のダイジェスト、ヨーロッパに入ります。
 今日は、3章その3「イギリスのワイナリー 変わるブドウの北限と主産地」の紹介です。
 地理の教科書や地図帳でおなじみの、「作物の栽培限界線」(これ以上寒くなったり乾燥が厳しくなると作物が育ちませんというライン・・・ただし品種改良や農法の進化など、人間の努力(および需要)で変わって行きます)について、ブドウを例に
考えてみるというものです。

 図1では、ブドウの栽培北限とオリーブの栽培北限を示しています。教科書的な北限では、ブドウの栽培限界線はパリ、ボンの北、ベルリンのちょっと南を通り、内陸部に入ると南下して(寒さが厳しくなるのでしょう)ドナウ川のちょっと北を通って行きます。オリーブはスペインのマドリードあたりから南仏を取り、イタリアは長靴の真ん中を「アペニン山脈」が通っているのでそれを避ける形で栽培限界はぐっと南を通っています(ここでは掲載を省略します)。

 図2では、主なブドウの生産国の栽培面積の増減を1995年と2016年で比較しています。
 主要な産地であるイタリア、スペイン、フランス、ドイツといった国々では軒並み栽培面積を減らしている一方で、ギリシア、イギリス、ベラルーシ、リトアニアといった国々では栽培面積が伸び・・・・あれ?栽培限界線より北じゃないすか?ということで、どうなってるんだろうと、EURO STATをはじめ、イギリスの国内統計を色々探ってみました。
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イギリスのワイン事情については、FSA(イギリス食品規格機関)が公開している″UK Vineyard Register”というサイトに詳しいです。図3は、こちらの統計資料を基に描いた、南イングランドにおける州別のブドウ栽培面積の地図です。図4は、イギリスのブドウ栽培面積とワインの生産高の推移を載せました。
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 イギリス(グレートブリテン島)でのブドウ栽培とワイン醸造は、ローマ帝国の時代から細々と行われていたようですが、本格的な商業生産が定着してきたのはここ20年ぐらいとのことです。温暖化にともない、ブドウの栽培に適したエリアが増えてきたこと、ロンドンをはじめ、大消費地が近いことなど、ワイン生産を後押しした背景は様々に考えられます。大産地フランスあたりとかぶらないように(?)スパークリングワインを中心に作っているのが特徴です。

 と、これを書こうと思っていたら、面白いニュースが入ってきましたので、併せて紹介します。
 11月29、30日、東京・お台場の日本科学未来館で行われている「G空間EXPO」内のイベント、「Geoアクティビティコンテスト」(主催:国土地理院)で、奈良大学地理学科の学生さんのチーム(2回生と1回生!)の取り組み「スマホでGIS!ーweb GISコンテンツ『SONIC』を利用した地理教育ー」が「地理教育賞」を受賞しました。

 Web上で動作するESRI社の「ストーリーマップ」の技術を利用して、生徒がスマホでQRコードを読み取ると、主題図に直接アクセスできるという教材ですPDFファイルアップされているので、先生はこれをプリントアウトして配れば即資料が引用できるという仕掛けです。その中に、「ブドウの北限」という教材があったので、「ほうほう」と思い、拝見した次第です。こちらでは、最新の「北限」が示されています。

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 栽培面積の変化が各州毎、時系列で表示出来たりすると、ブドウの栽培地がだんだん北上して行く様子がわかるんじゃないかと思います。重要なことは、単に「暖かくなったからブドウの栽培地が北上した」と説明するのではなく、全く新しい産地のブドウに対応した商品開発がされたこと、逆に暑くなりすぎてブドウの栽培や品質の維持が出来なくなった産地があり、その代替地として新たな産地が開かれている可能性があることなど、経済の面から考えてみる必要があるように思います。

 ワイン同様、授業に出す上で素材(教材)との組み合わせが大事かな?と思う話題ではないでしょうか。
 本書の主題図もこんな感じでWeb GISで学習教材化してもらうと、また使い勝手がよくなるかもしれません。
 若きデジタルネイティブ、GIS使いの皆さんの今後の活躍に期待しています。
 奈良大の皆さん、受賞おめでとうございます。



posted by いとちり at 17:24| Comment(0) | 地図化すると | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月18日

新刊発売記念 中身紹介6 アフリカを目指す日本の中古車

 「アフリカを地図化する」の章末コラムから。
 日本で下取りや買い取りで集められた中古車は、世界中で取引されていますが、最近アフリカ市場のウエイトが高まっているというお話です。日本から各国への輸出の状況を2007年と2018年で比較しています。

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図1 日本からの中古車の輸出台数(2007年)
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図2 日本からの中古車の輸出台数(2018年)
国別の比較はこちらです。
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図3 主な国の輸出台数の比較

 2007年、日本からアフリカへの中古車の輸出台数は、アフリカ全体で約8万台でした。
 当時の1位はロシアで、年間約29万台輸出していました(2018年は約9万5000台まで減少。日本のメーカーがロシアで新車の現地生産を始めた影響もあるかもしれません)。

 アフリカでは、旧イギリス植民地(車は日本と同じ右ハンドル)の国で輸出台数を伸ばしています。アフリカへの輸出が最も多いのが南アフリカ共和国(8万9552台)で、次いでケニア(7万7288台)、タンザニア(5万8598台)と続きます。

 アフリカではありませんが、アラブ首長国連邦とパキスタンも、統計に入れました。
 両国は、日本とアフリカをつなぐ「中古車貿易のハブ」の役割を果たしているためです。
 金融拠点・リゾート都市として知られるドバイや、パキスタンの最大都市カラチには、巨大な中古車の中継貿易拠点があり、インターネットによる取引などを通じてアフリカ各国に輸出されています。日本に滞在するパキスタン人には、中古車販売ビジネスを手掛ける人が多く、国を超えた同胞のネットワークがアフリカの中古車市場を支えています(ちなみに、アラブ首長国連邦は左ハンドル・右側通行、パキスタンは右ハンドル・左側通行です)。
 最近めっきり増えた「車買い取り専門店」。「たかーく買います」と買い取られた愛車は、海を越えて、アフリカの大地で第2の人生を送っているのかもしれません。

posted by いとちり at 21:10| Comment(0) | 地図化すると | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

新刊発売記念 中身案内5 「クルーズ船」ブームと沖縄修学旅行

第1章「アジアを地図化する」の章末コラムから

 担当者として、腕によりをかけてアレンジしてきた「沖縄修学旅行」が、「予算オーバー」のため、無くなってしまった(現在は、台湾修学旅行。沖縄よりも、台湾に行った方が安いんです)ことに対する恨みじゃないですが、「そもそも、なぜ沖縄は高くなってしまったんだろう?」というところから書き起こしてみたコラムです。

 旅行者さんに聞いたところ、一番高くなってしまったのは、「貸切バス代」のようです。基本、沖縄の修学旅行では3泊4日、まるまる観光バスを借ります(京都や九州のように、「終日班行動」みたいなことがしにくい)が、中国や台湾などからいらっしゃるクルーズ船が増える中で、一回に50台とか100台とか、すごい数でオーダーが入り、価格が上がり、運転手さん不足も相まって、バスの調達そのものが厳しくなっているようです。そこで、「クルーズ船」がどのくらい増えているか、統計をもとに地図化してみました。
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図1 外国クルーズ船の年間入港回数(2013年)
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図2 外国クルーズ船の年間入港回数(2018年)

 2013年の日本の各港湾へのクルーズ船の寄港数は1001回(うち外国船は303回)でしたが、2018年には2928回(うち外国船は1913回)でした。年間100回以上の寄港があった港は、2013年には横浜港と神戸港の2港でしたが、2018年には10港に増えました。
 2018年の寄港数の上位を挙げますと、1位:博多港(279回)、2位:那覇港(243回)、3位:長崎港(220回)、4位:横浜港(168回)、5位:神戸港:135回と、九州勢が横浜・神戸を抜いています。ちなみに、年間100回以上の寄港があった10港のうち、6港までが九州・沖縄の港です(宮古島の平良港:143回、佐世保港:108回、石垣島の石垣港:107回、鹿児島港:100回)。

 飛行機と違って手荷物制限がない客船では、「爆買い」が容易です。また、旅行を主催する側も、あらかじめ「爆買い」を見越して訪問先の土産物店などから協賛金を得て、旅行代金を安く設定して、宿泊代から飲食費までパッケージで提供するため、割安感を出しやすいのも特徴です。一度に2000人〜4000人の人が上陸しますので、貸切バスが根こそぎ動員されてしまう構図です。

 「バスがないから修学旅行先を変更する」、「修学旅行よりも手っ取り早く稼げるから、外国人のツアーを優先する」という姿勢では、長期的に見るとあまり良いことではありません。「爆買い」もあくまで一過性のブームに過ぎません。目の前の外国人客のオーダーよりも修学旅行を優先しなさいとは言いませんが、こうした環境の変化を前向きにとらえて、「観光バスによる定番ルートの周遊」に捉われない、新しいタイプの修学旅行(街歩きや体験など)を作ることで、沖縄や九州の教育旅行がより活性化して行くのではないかと思います。
 そんな期待を込めて、昔沖縄でやらせてもらった地図アプリを使った街歩き研修の論文へのリンクを貼ります。

地図化すると世界の動きが見えてくる(2019年11月13日発売)
もくじと本編のサンプルがPDFで読めます。
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2019年11月17日

新刊発売記念 中身紹介4 チャイナパワーin アフリカ

 中国のアフリカにおける影響力を地図で表わした項です。
 詳しい背景は本編に譲るとして、地図をダイジェストでご覧いただきます。
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図1 中国からアフリカ諸国への銀行融資残高と融資目的

 ひときわ融資残高の円が大きいのが「アンゴラ」です。
 2000年から2015年までの融資総額は192億2426ドル(日本円で約2兆円)で、中国からアフリカ向け融資の約20%を占めます。2004年頃から中国が国策的に融資を伸ばして石油資源開発を進め、2007年にOPEC加盟を果たしています。現在、アンゴラの輸出先の43.2%が中国向けです。

 国際的な債務残高に苦しんでいる国に「有利な利率での借り換え」を持ちかける形で、中国はアフリカ諸国に接近し、その上で資源開発などの大型プロジェクトを仕掛けてきました。担保は豊富な「地下資源」です。
 図2は、中国企業の地下資源開発の国別投資額(2006年〜2015年の合計値)です。赤丸が石油、緑の四角が石炭、橙三角が銅です。石油はアンゴラ、ナイジェリアなど既存の産油国の他に、チャド、カメルーン、ウガンダなどの内陸部の油田への投資が、石炭はエジプト、モロッコ、マラウイ。ケニアなどに、銅はザンビアやコンゴ民主共和国などに投資されています。
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図2 地下資源への国別投資額(2006〜2015年の合計)

 よく、中国資本の鉱産資源の開発では、探査や採掘にあたる人員を中国側が用意して、地元の人達を雇うことをしないと言われます。多くの人手を要する産業ですからさすがにすべての作業を中国人が行うことは考えられませんが、重点的に投資が行われる国では、一時的に中国の技術者が集まり、また引き上げていく様子が統計地図から見ることが出来ます。
 図3・4は、アフリカ諸国における滞在中国人の人口を2009年と2015年で比較したものです。
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図3 アフリカ諸国における滞在中国人人口(2009年)
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図4 アフリカ諸国における滞在中国人人口(2015年)

 アンゴラは、最盛期は約20万人の中国人が滞在していましたが、2015年には4万4106人にまで減っています。最も中国人が多いのはアルジェリア(9万1000人)で、アンゴラは2位になりました。政情不安の影響からか、2009年に赤(2万4155人)いたリビアは、2015年には135人にまで減りましたが、この間の増減を比較する限りは、急激に中国人が減った国は見られません(むしろ増加している国が多いです)。

 アフリカ諸国は、中国製品の市場としても有望です。特に、鉱山開発用の大型機械や、灌漑や土木工事を行うための重機など、中国製の機械類の輸出が伸びています。基本的に代金は信用払い(支払の期限を長くとる、あるいは無期限の゛出世払い”)で、貿易というよりも援助のような形で関係強化を意図しているようです。中国製の機械を一度導入してもらえば、修理や部品交換など、メンテナンスの部分でも関わりが持てますし、採掘された資源を優先的に輸出してもらうことも期待できます。

 図5・6は中国からアフリカ諸国むけの輸出額を示した図です。
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図5 中国からアフリカ諸国への輸出金額(2000年)
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図6 中国からアフリカ諸国への輸出金額(2015年)

 アフリカ諸国への進出に「国策」的に関わる中国の現状は、非常に「地図映え」します。賛否両論はあるとは思いますが、「なぜ中国はアフリカと深い関係を築こうとしているのか?」「中国の人・カネ・モノを大量に送り込む中国に依存するアフリカ諸国のリスクは何か?」(特に植民地時代と比較して)、「長年援助などを通じてアフリカと関わってきた他の国々はどう対抗して行けばいいのか?」(電源開発や、農業技術で関わりを持つ日本の事例を本書では取り上げています)等、授業での「問い」に出来るのではないかと思います。詳しくは、本篇をご覧ください。

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2019年11月14日

発売記念 中身案内B 電気はない。でも携帯はあるアフリカの国々

 第3章 「アフリカを地図化する」では、電気や道路などの社会インフラに関して扱う項があります。
 まずご覧いただくのがアフリカ諸国の電化率(電気を使える人が総人口に占める割合)です。
 80%を超えているのは、産油国でもある北アフリカ諸国と南アフリカ共和国のみ。アフリカ中央部では10%にも満たない国が多いです。
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しかし一方で、携帯電話の普及率は目覚ましいものがあります。
2000年と2015年を比較してみます。上が2000年、下が2015年。電力とは違い、真っかっか(80%以上)です。
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 電気が来ていなくても、太陽光発電で充電を行い、基地局を設置するアフリカ諸国。ケニアの人口カバー率は80.7%にのぼります。実際は、1人1台の形の個人所有だけでなく、「キオスク」と呼ばれるレンタル携帯電話のスタンドがケニア国内で約7万か所、アフリカ全体で28万7400ヶ所(2016年)あります。アフリカの携帯電話の料金は、基本プリペイド方式で、借りた携帯電話にSIMカードを差して使います。
 携帯電話が急速に普及した背景には、「M-pesa」と呼ばれる携帯電話同士の現金決済サービスがあります。
 現在、アフリカを中心に10か国で使えるサービスで、アフリカの他にインドや東欧でも使えます。
 以下、M-pesa導入国と導入年のマップです。彼らは携帯電話をお財布代わり、時には決済や送金に用いる銀行口座代わりに利用しています。
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「携帯電話を使うマサイ族」の動画が、NHKの高校講座「地理」でありました。ここでは、通話の様子だけで、現金決済に関しての説明はされていません(Chapter2:「変わる暮らし・ケニアのマサイ族」参照)。

「携帯電話による送金と受け取り」が、どんな場面で重宝されているのかについては、ケニアを拠点にサービスを展開する”Safari com"(英:Vodafoneの子会社)のこのCMが端的に表しています。ATMはおろか、銀行自体にアクセスすることが難しい人達が、安全にお金を蓄え、送金することがいかに大変かを考えると、M-Pesa(ショートメールを使った送金サービス)が爆発的に普及した理由が分かります。


 ケニアにおける携帯電話の人口普及率はたかいですが、基地局の分布とカバーエリアはまだ限定的です。また、本格的なスマホ化が進む中、回線も3Gが多く、容量オーバーの心配もあります。Safari com社の資料から、ケニアにおける携帯カバーエリアを描いた地図がこちらです。
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「電気は来ないが携帯電話は利用するのはなぜか?」
「なぜ、ケニアの携帯電話会社は電気も来ないような村落部でビジネスを展開できるのか?」

最近話題の「探究的な学び」のネタとしていかがかと思います。




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posted by いとちり at 22:03| Comment(0) | 地図化すると | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする