新刊『地図化すると世界が見えてくる』のダイジェスト、ヨーロッパに入ります。
今日は、3章その3「イギリスのワイナリー 変わるブドウの北限と主産地」の紹介です。
地理の教科書や地図帳でおなじみの、「作物の栽培限界線」(これ以上寒くなったり乾燥が厳しくなると作物が育ちませんというライン・・・ただし品種改良や農法の進化など、人間の努力(および需要)で変わって行きます)について、ブドウを例に
考えてみるというものです。
図1では、ブドウの栽培北限とオリーブの栽培北限を示しています。教科書的な北限では、ブドウの栽培限界線はパリ、ボンの北、ベルリンのちょっと南を通り、内陸部に入ると南下して(寒さが厳しくなるのでしょう)ドナウ川のちょっと北を通って行きます。オリーブはスペインのマドリードあたりから南仏を取り、イタリアは長靴の真ん中を「アペニン山脈」が通っているのでそれを避ける形で栽培限界はぐっと南を通っています(ここでは掲載を省略します)。
図2では、主なブドウの生産国の栽培面積の増減を1995年と2016年で比較しています。
主要な産地であるイタリア、スペイン、フランス、ドイツといった国々では軒並み栽培面積を減らしている一方で、ギリシア、イギリス、ベラルーシ、リトアニアといった国々では栽培面積が伸び・・・・あれ?栽培限界線より北じゃないすか?ということで、どうなってるんだろうと、EURO STATをはじめ、イギリスの国内統計を色々探ってみました。
イギリスのワイン事情については、FSA(イギリス食品規格機関)が公開している″UK Vineyard Register”というサイトに詳しいです。図3は、こちらの統計資料を基に描いた、南イングランドにおける州別のブドウ栽培面積の地図です。図4は、イギリスのブドウ栽培面積とワインの生産高の推移を載せました。
イギリス(グレートブリテン島)でのブドウ栽培とワイン醸造は、ローマ帝国の時代から細々と行われていたようですが、本格的な商業生産が定着してきたのはここ20年ぐらいとのことです。温暖化にともない、ブドウの栽培に適したエリアが増えてきたこと、ロンドンをはじめ、大消費地が近いことなど、ワイン生産を後押しした背景は様々に考えられます。大産地フランスあたりとかぶらないように(?)スパークリングワインを中心に作っているのが特徴です。
と、これを書こうと思っていたら、面白いニュースが入ってきましたので、併せて紹介します。
11月29、30日、東京・お台場の日本科学未来館で行われている「G空間EXPO」内のイベント、「Geoアクティビティコンテスト」(主催:国土地理院)で、奈良大学地理学科の学生さんのチーム(2回生と1回生!)の取り組み「スマホでGIS!ーweb GISコンテンツ『SONIC』を利用した地理教育ー」が「地理教育賞」を受賞しました。
Web上で動作するESRI社の「ストーリーマップ」の技術を利用して、生徒がスマホでQRコードを読み取ると、主題図に直接アクセスできるという教材です。PDFファイルがアップされているので、先生はこれをプリントアウトして配れば即資料が引用できるという仕掛けです。その中に、「ブドウの北限」という教材があったので、「ほうほう」と思い、拝見した次第です。こちらでは、最新の「北限」が示されています。
栽培面積の変化が各州毎、時系列で表示出来たりすると、ブドウの栽培地がだんだん北上して行く様子がわかるんじゃないかと思います。重要なことは、単に「暖かくなったからブドウの栽培地が北上した」と説明するのではなく、全く新しい産地のブドウに対応した商品開発がされたこと、逆に暑くなりすぎてブドウの栽培や品質の維持が出来なくなった産地があり、その代替地として新たな産地が開かれている可能性があることなど、経済の面から考えてみる必要があるように思います。
ワイン同様、授業に出す上で素材(教材)との組み合わせが大事かな?と思う話題ではないでしょうか。
本書の主題図もこんな感じでWeb GISで学習教材化してもらうと、また使い勝手がよくなるかもしれません。
若きデジタルネイティブ、GIS使いの皆さんの今後の活躍に期待しています。
奈良大の皆さん、受賞おめでとうございます。
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