教科書会社、二宮書店さんの高校教員向けリーフレット「地理月報」での連載が始まりました。
本文にもある通り、「防災教育にGIS」シリーズは、2012年から始めたもので、本誌、Web限定連載、教科書の指導書付属DVDと連載の場を変えて細々と続いています。今回、「シリーズ2」として再び紙媒体に登場し、連載完了とほぼ同時期に書籍化される予定です。当ブログ「いとちり」内に、かつての記事を全部まとめたものがありますので、興味のある方は是非ご覧ください。
「いとちりの防災教育にGIS」一括公開(いとちり:2017年3月23日)
今回のテーマは「必修化に備えた教材作り」です。
2022年4月の入学生(現在、中学1年生)より、高校の新しい学習指導要領が実施されます。必修科目化する「地理総合」(2単位)をどうするのか、業界の集まりに出ると基本的にこの話題に終始しています。ただ、本文でも述べたように、「地理総合」という科目が必修化されるということと、「すべての高校生が再び地理の授業を受けることになる」ことの概念の使い分けが十分になされていないのではないか?という気がしてなりません。「地理の専門家」が「地理総合」を担当したら全く問題ないのか?というと、そうはいかないように思います。むしろ下手に旧来の「高校の地理とはこういうものだ」という固定観念、あるいは「アクティブラーニングとは、こうあるべきだ」といった方法論が、却って新科目の理念やプロセスを骨抜きにしてしまうのではないかと危惧しています。その典型が、「GIS」と「防災」の扱いではないかと思うのです。
GISは、地域を理解し、データを可視化する上でのツールに過ぎません。防災は、様々な地域課題を考える上での一つのトピックであり、自然環境や社会環境が入り混じります。これまでの単元主義で、「はい、GISを扱います」「はい、身近な地域の危険性を考えてみましょう」といった取り上げ方から是非脱却したいものです。世界の諸地域の学習にせよ、地図の読み方にせよ、ベーシックな部分でGISや地域課題の探求を意識して行くものだと思います。そうした積み上げ式の指導は、私自身もまだ経験したことがありません。ただ、GISがパソコンからタブレット、そして生徒が一人一台ほぼ持っているスマホでも十分に使えるようになり、その気になれば「いつでもどこでもGISにアクセス」することは技術的には可能です(ルール作りや評価、生徒指導的な部分でまだ追いついていませんけど)。また、防災をめぐる事例やデータは日進月歩で高精度化、多様化しています。そうした知識や技術を適度に取り込みつつ、地理の基礎基本(わからない場所や地名を地図で調べる、資料にあたって裏を取る、気づいたこと考えたことを言語化する)のトレーニングとステップをどう組み立てていくか、まさに模索の段階です。
シリーズ2では、理論編(教材作成編)を3回のち、再び「フィールド編」として、ここぞという場所にお邪魔してデジタル地図と現地見学を基に教材化の提案をしてまいります。地理教育における防災は、「近くの″もしも”よりも、遠くの”リアル”」に学べる事象は多いと思っています。連載で取り上げる場所に加えて、書籍版オリジナルとして、仕事の合間を見つけて現場に足を運ぼうと思っています。皆様のお近くに行く際は、お世話になることもあると思います。どうぞよろしくお願いします。
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<書誌>
伊藤智章(2019)「いとちりの防災教育にGIS 2-1ー『地理総合』の3つの柱と3つのステージ」,地理月報(555),18~19頁.