連載の3回目です。
第1回目は、自治体のハザードマップ(PDFファイル)を画像ファイルにしました。
第2回目は、ハザードマップを料理するために、「QGIS」という、ちょいと玄人向けのGISソフトをインストールして国土地理院のサーバーとつなぐところまでを解説しました。料理で言うならば、1回目で仕入れと下ごしらえ、2回目で厨房の環境を整えたという感じです。
3回目の本稿では、まだ「生」(切り身にしただけで加熱も味付けもされていない)のハザードマップ画像をQGISで料理して、色々と使える「Geotiff形式」(位置情報を持った画像データ)にする作業です。生の魚や肉は刺身ぐらいにしかなりませんけど、焼いたりフライにすれば色々味付けはできますし、パンにはさんで外で食べることも出来ますね。ただ、あまり焼き目を入れ過ぎたり、こってりと味付けしてもいけません(もともとハザードマップ自体、色々と描かれていてかなり゛脂っこい”素材ですし)。・・・料理の例えはさておき、慣れればささっと出来る作業です。手際よく捌いて、ぜひ量産に励んでいただきたいと思います。
(1)QGISの「ジオリファレンサー」ブラグイン
位置情報を持っていない地図に位置情報を持たせる作業のことを「ジオリファレンス」と言います。パソコンは、いくら住所を言っても位置を認識しませんので、画面上の座標と地球上の位置(緯度経度)を対応させてやらないと、そもそも「この情報は地図だ」ということすらわかってくれません。しかも、「四隅はここだよ」から始まって、「この地点はここね」と指定を繰り返してやらないと、なんか場所がずれた地図になります。逆に、地図に位置情報がピタッと与えられて、現場に行ってGPSで現在地がパシッと表示されたりすると、とても気持ちいいものです。
第2回の項目で、QGISは、「プラグイン」というオプション機能を自分で取捨選択して機能をカスタマイズできるソフトであると紹介しました。ただ、今回使う「ジオリファレンサー」プラグインは、最初から標準装備されている機能ですので、新たにインストールする必要はありません。開くところから解説します。
1-1 「ジオリファレンサー」プラグインを開く
前回の項の終わり、QGISに「地理院地図」(地形図)が表示されている状態を前提にします。
メニューバーの「ラスタ」から「Georeferencer」を開きます。そうすると、別ウインドウでジオリファレンサーが立ち上がります。
1-2 ジオリファレンサーにハザードマップの画像を載せる
フライパンの上に、素材をのせます。
ジオリファレンサーのメニューアイコンの一番左、「ラスタを開く」をクリックして、画像を選択して読み込みます。
1-3 位置情報を指示する。
コンピューターにとってはまだ「ただの絵」に過ぎないハザードマップ画像にポイントを打ちながら、「この地点は、ここだよ」の作業を繰り返します。そのために、先ほどからつないでいる地理院地図(国土地理が提供する、緯度経度情報が完璧な地図データ)と対比させていきます。以下、ご覧ください。
<ジオリファレンサー側で>
@ポイントの追加(黄色いボタン)を選びます。
A地図(ハザードマップ)上で目印になる地点を探し、ポイント上で左クリックします。
例えば、特徴ある島の突端や、堤防の端、交差点などです。例えば、この長細い島の突端を目印にするとします。
カーソルを合わせて左クリックすると、位置を訪ねるウインドウが出ますので、「マップキャンパスより」のボタンをクリックします。
<QGISメイン画面で>
マップキャンパス=QGISのメイン画面に移ります(地形図が表示されています)。地形図上で先ほど指定した地点と同じ場所を探して、地形図上の点をクリックします。そうすると、ハザードマップ上の地点に位置座標の数字が入りますので、OKをクリックします。以下、場所を変えて10〜20地点ぐらい指定してください。最低でも3地点、地点の数がある程度あった方が位置合わせの精度が高まりますが、多すぎても処理が遅くなります。
余談ですが、この作業を繰り返すと、嫌でも地図をじっくり見ることになりますので、初めて行く土地でも疑似的な土地勘がついて、「ああ、この景色はここね」と親しみが持てるようになります。
1-4 「ジオリファレンサー」の設定(←重要なところです)
位置情報を当てて一気に成形するプロセスは、塩コショウをして「火入れ」するという感じです。
ただ、しっかりと設定をせずにやみくもに火を入れても(ジオリファレンスにスイッチを入れても)生焼けグズグズ(位置ずれまくり)で食えたもんじゃない(ひどい場合には完了画面に地図が表示すらされない)状態になりますので、もう一声、火加減や温度設定(ここでは座標系と変換法)など、処理するソフト側の設定が重要です。
(1)ジオリファレンサー上で、「設定」→「変換の設定」を選びます。
(2)変換の設定を以下のようにします。特に、〇の「変換先SRS」の設定に注意してください。
変換タイプは「線形」
リサンプリングは「最近傍」
変換先SRSは、EPSG:3857−WGS84/Pseudo-Mercator が一番うまく行くようです。
(3)出力の設定
「出力ラスタ」は、ファイル(位置情報を持った画像ファイル)を保存する場所、ファイル名を指定します。
ファイル名には日本語も使えます。
「圧縮」はLZWを選びます。圧縮してもファイルサイズは結構大きくなります(10MB程度)
一番下の「完了時にQGISにロードする」にチェックを入れてください。
1−5 では、ジオリファレンス開始!
いろいろややこしく説明してきましたが、全ての条件がうまく整っていれば、一瞬でジオリファレンスが完了します。
うまく行かない場合は、これまでのステップをもう一度たどってみてください。
(1)ジオリファレンス開始ボタンをクリックします。
(2)「完了しました」の表示が出たら、ジオリファレンサーのウインドウを最小化してください。ベースマップの地理院地図(地形図)の上に、ハザードマップの画像が重なっていれば成功です。
「レイヤー」欄の「地理院地図」の上に「tsunami-nishina modified」(ハザードマップのファイル名)が追加されていますので、右クリックして「プロパティ」を出して、透かしてみましょう。
ほぼぴったり重なっているようです。
衛星写真との重ね合わせも見てみましょう。大丈夫です。肉や魚なら、「よく焼けてる」状態です。
1−6 位置情報付き地図ファイル(Geotiff)の取り出し
位置情報を持たなかったただの地図画像(生の素材)を料理して、位置情報付きのファイルにしました。
仕上げとして、これをフライパン(QGIS)から取り出して、お皿に載せるなりパンにはさむなりするための単体のファイル
として書き出す工程です。保存の仕方がちょっと独特なので、注意してください。
(1)書き出すファイルを選択します。
「レイヤー」欄の、ハザードマップの画像を選択して、右クリックをします。
(2)「エクスポート」→「Save as」の順で開いていきます。
(3)保存設定の画面が出ますので、いくつかの場所の設定を変えた上で保存します。
@まず、「出力モード」を「画像」にします。
Aファイルを保存する場所とファイル名を決めます(この時、拡張子は"tif"になります)
BCRSの部分を変えます。現行のものから「WGS84」(下図)に変えます。
CCRSを変えると、東西南北の数値がXY座標軸から緯度経度座標軸に代わります。
最終的に、下図のような設定になったら完了です。OKをクリックして、Geotiffファイルの書き出しを確認してください。
一見普通の画像ファイルですが、「プロパティ」を見ると33MBもサイズがあります。
スマホ用等に軽くする方法もありますが、解説は次項にします。