今となっては当たり前になっている「主題図の入った教科書」(それまでは、延々と文語調の解説文のみだった)、「カバンに入る、1人1冊のMy地図帳」(それまでは、厚くて重いサイズで、教室に据え置きだった。アメリカやヨーロッパでは今でもこのスタイルを取っているところが多い)、それは今から約100年前、1人の超個性的かつ野心的な地理教師のアイデアと実行力で生み出されました。彼の名は、守屋荒美雄(もりやすさびお)。明治5年(1872年)生まれ。樋口一葉、島崎藤村、幣原喜重郎が同い年です。
高等小学校を卒業後、独学で教員資格にチャレンジして中等学校教員資格を取得。師範学校、大学等の高等教育を経ずに東京の独協中学校の教諭として活躍。斬新な地理の授業で生徒を引っ張るとともに、自分と同じような独学で教員資格を取ろうという苦学生のために参考書を執筆して売れに売れ、30代後半には出版社と組んで、地理の教科書を自ら執筆するなど、とにかく商才に長け、マーケティング感覚に優れていた彼は、今からちょうど100年前、「帝国書院」を起業してからもその能力をいかんなく発揮します。
何年か前に、月刊『地理」誌で「守屋荒美雄と帝国書院」と題した勝手に聖地巡礼企画の連載を書いていた縁があり、このたび郷里の倉敷市で行われる特別展のギャラリートークをさせてもらえることになりました。せっかくの機会ですので、「カリスマ地理教師・守屋荒美雄」としての前半生はもとより、40代以後の「経営者・守屋荒美雄」、そして「教育イノベーター・守屋荒美雄」に焦点を当てて講演を組み立てようと思っています。
日々の激務、教育問題の複雑化、ベテランの大量退職と若手の急増などなど、今の教員、とりわけミドル層(自分達の同世代)は、なかなか明るい話題がありません。「このまま日々のルーティンをこなしていってあと20年、なーんにも変わらずにボロボロになって定年になっていくのかな・・・」とか、挫折や休職、あるいはその淵まで来てにっちもさっちも行かなくなっているとか、まあ、色々大変なんです団塊ジュニア、採用超氷河期世代は・・・。で、年の近いもん同士で愚痴るのも一興なんですが、そういう時こそ歴史に学ぶ、超ぶっ飛んだ先達に学びましょう!というメッセージを込めたいです。・・・荒美雄先生だって悩み、苦しみ、家庭と仕事の両立に心を砕きました。また、経営者になってからは「書きたい!」という欲求と、日々の業務との配分にも随分ご苦労されたようです。
地方の美術館の教養講座ですから、郷土の歴史に興味のあるシニアの方々が多く見えられると思います。もちろん、そうした方々にも楽しんでいただける内容にしますが、個人的にメインターゲットに据えたいのは゛同年代の同業者”の皆様です。場所は倉敷の美観地区、いいところですよ。暑いですけど。夏の遠出の候補として、倉敷、瀬戸内散歩はいかがでしょうか?
以下、帝国書院の特設サイトへのリンクです。