2015年04月06日

「地理院地図」教材化プロジェクト―第23期日本学術会議地理教育分科会

  「学者の国会」日本学術会議の第23期(2015年〜2017年)の分科会委員を拝命しました。
  地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同 地理教育分科会の、地図/GIS教育小委員会というところに所属します。(会員名簿。昨日は小委員会と、分科会全体会があり、国土地理院の情報普及課長さんから、国土地理院が誇る最強のWeb地図サービス「地理院地図」と、その活用を図る「地理院地図パートナーネットワーク」の概要についてプレゼンがありました。

小学校から大学教育までの地理教育の中身やカリキュラム、地理学の普及・啓蒙策に至るまで、学術会議地理教育分科会が扱う内容は多岐にわたります。政府の内閣府が管轄し、各委員会や会議全体から発せられる「提言」は、国の文教政策や、傘下の各学会にも影響を与えます。先日の日本地理学会で発表した「オープンデータと地理教育」いとちり:2015年3月29日でも、学術会議の提言を引用させてもらいました。非常に権威のある会議ではありますが、地理学、地理教育の最前線で活躍される先生方が同じテーブルでざっくばらんに意見を戦わせる活気あふれる会議です。

午前中は、各小委員会の顔合わせと、運営方針についての議論があり、午後は、この日の目玉となった、「地理院地図」についての講演でした。国土地理院は、2003年から「電子国土」「基盤地図情報」等のブランドでインターネットを通じて地形図や地理データを提供していますが、それらを一つのWeb地図上に集約して、なおかつ改造歓迎”(オープンデータ化・オープンソース化)して公開しているのが「地理院地図」です。
 Web埋め込み”機能を使って、いくつか地図を埋め込んでみましょう。まずは、「標高図」の表現。

いいですね。印刷機能を使うと、A4、A3での高詳細での印刷が可能ですので、大判印刷や、地図アプリの背景地図にも使えそうです。
2500分の1スケールの地図


建物の一つ一つまで把握することが出来ます。

立体モデル(3Dプリンタでの出力も可能)
3D.jpg

他、古い空中写真の表示や、災害が起きた時に提供される緊急撮影空中写真の公開など、様々な機能があります。

課長さんによると、「地理院地図」の基本ポリシーは4つだそうです。

@オープンアクセス・・・・・どんなブラウザからでもアクセスでき、大量アクセスにも耐えうるシステムを作るため、「タイル化」。日本全体では、350GBにもなる膨大なデータを、小さな正方形の「タイル」に分割して、少しずつ送ってユーザーの端末上で再構成することで通信への負担を減らしています。(だいたい、1日5万ページビューがあるそうです)。

Aモバイル対応・・・・・・・パソコンは使わないが、スマホやタブレットは手放せないという人が増えている昨今。「モバイル端末」といってもそれが「メイン」になっている人が特に若い世代には多くなっています。
国土地理院では、これらの端末でも快適に見られるように工夫がされています。

Bシステムオープンソース・・・・どんな仕組みで動いているのかが公開され、バージョンアップされればその内容がソフトウエア技術者のSNS(GIT Hub”)で公開されるという徹底ぶり日本の政府機関で
GIT Hub上に公式アカウントを持ったのは国土地理院が最初なんだそうです。「改造、独自サイトやアプリ作り大歓迎」というスタンス。また、地図も一定の条件の下で印刷や二次利用も許諾なしで行えます。
 日本の戦前や、ほんの20年ぐらい前までの隣国では、地形図を外国に持ち出すことは重大な犯罪でしたが、その頃の人が聞いたらひっくりかえるような開けっぴろげぶりです。
 「なぜ国土地理院は、そこまでオープンにこだわるのですか?」という委員の質問に、課長さんの答えが振るっていました。

 「私たちは、地図屋であり、ソフト屋さんではありません。Webサービスを始めた頃は閲覧ソフトなどを自分達で作って配ったりしていましたが、今は仕様を公開して、色々と提案したり、サイトを作ってくれるパートナーを募った方が普及が進みます。我々は、地図を使ってもらえるのなら、あらゆる方法を取ります。」

 餅は餅屋、ブラウザやスマホでの活用方法はソフトウエア屋さんに任せて、自分達は使いやすい素材つくりと提供に徹するという指針でしょうか。なるほどと思いました。
Cパートナー
  この趣旨に賛同して「パートナー」に名乗りを上げた企業・団体・個人技術者は現在109者。地理院が素材の加工やシステム開発の委託開発をしている企業が70社、地理院地図システムを利用したアプリ等を開発しているツール提供者が39社(者)だそうです。で、まだまだ足りないのがエンドユーザー(一般人や教育関係者)にむけた活用事例や操作マニュアル、学校教育教材を作る「教育屋さん」のパートナーでありまして、その筋の餅屋にお声がかかったという次第です。

  現在、パートナーシップ会議には、帝国書院さんをはじめとする地理に強い教科書会社、学校教員向けにデジタル地図教材を提供しているNPO法人伊能社中(私もティーチング・フェロー”という肩書で、周りをうろちょろしています)。マニュアル書きが好きな人(私?)はマニュアルを、厳しいネット&ハードウエア環境でまともに動くようにオフライン教材を作るのが好きな人(私?)は教材を、どうぞ作っておくんなさいという太っ腹な提案に、なーるほどと唸りました。

 オープンストリートマップというムーブメントがあります。企業や政府機関から無償(あるいは廉価に)提供された高精度な衛星写真(最近は無人飛行機の写真も活用されつつあるようです)がWeb上に置かれると、全世界の有志(マッパーと呼んでいます)が寄ってたかって道路や建物などをトレースして地図にして、著作権フリー、2次利用可で公開するものです。一見、Google Mapによく似た地図ですが、Google Map(社員が企業の責任で作っている)が印刷を含めて二次利用に厳しい制限をかけているのに対して、自由に使えるのが特徴です。2010年1月におきた、ハイチ大地震でマッパー達が大活躍して知名度を上げ、その様子は、「いとちり」でも「がんばれ!ハイチ」シリーズでフォローしました。

 東日本大震災でも、マッパーは大活躍し、国土地理院も様々な写真や津波浸水範囲などを逐次公開しました。しかし、膨大なデータをさばき、被災地のニーズに応えるきめ細やかな地図の提供はできていなかたのではないかという反省、コミュニティベースの大縮尺の地図が手軽に手に入らなかったというジレンマ(⇒「いとちり」でも「地図太郎マニュアル」シリーズを作りました)があり、備えあれば憂いなし。分散化=強靭化。三人寄れば文殊の知恵、100人寄れば・・・という発想で、国土地理院も持ちネタのオープン化に舵を切ったのではないかと考えます。

 ある委員の先生が、「ここ最近、地理院地図は突然変異がごとく大進化を遂げている」と評されました。一方で、「いきなり根幹に近いところががらっと変わってしまって、今まで作りためてきた教材がみんな使えなくなってしまった」と苦笑交じりにコメントする先生もいらっしゃいました。石橋をたたいて渡るお役所仕事の所に、ドッグ・イヤーな業界の人からパートナーがわっと押し寄せ、秩序を構築する上での過渡期なのかもしれませんが、日本発の地図をめぐるイノベーションはものすごい勢いで加速しているようです。

 地理教員の端くれとしては、身近なところから教材にしていくこと(特に大判印刷、3Dプリント、地図アプリ化などは魅力です)と、この「群雄割拠」な地図の業界で一旗揚げてやろうという優秀な人材を見つけてその気にさせることがミッションなのではないかと思いました。

 次の「パートナー会合」は6月だそうです。一度覗いてみたいものです。
 地理の最先端、最高峰をまじまじと見させてもらい、春から気合の入る会合でした。
 今日から「2015年度シーズン」が開幕です。


posted by いとちり at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界地理の教材 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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