2013年08月23日

「デジタル教科書」と「デジタル地図帳」

  明日から、地理教育学会(佐賀大学)に出かけます。自分の発表は、8月25日の午前中です。
  最近、こういう集まりに出るとよく聞かれるので、頭の整理に改めて書いておきます。


 
「あなたは、デジタル教科書に賛成ですか?反対ですか?」
 

  私は、反対です。大反対です。というか、問題の本質を何も分かっていない方々が、単に「珍しいから」「外国も盛んにやっているから」「学校の教育を替えられるから」という、非常に頓珍漢な議論をしていて、さらにそれにビジネスチャンスを見出したメーカーさんや教科書会社さんが乗っかっている構図が、どうにもこうにも違和感があるからです。

 この「業界」のカリスマとも言える、慶応大学の中村伊知哉先生が、ご自身のブログで「教育情報化八策」なるものを公開されました。先生には申し訳ないですが、問題の本質を(悪い意味で)ついているので、ちょっとサンドバックにさせていただきます。
http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2013/08/blog-post_22.html

一つ一つ揚げ足をとっても何なので、まず、全体を見てみましょう。

(1)教育情報化タスクフォースの設置
(2)
デジタル教科書法」の策定
(3)教育情報化計画の前倒し
(4)デジタル教育システム標準化 
(5)
 推進地域の全国配置
(6)
スーパーデジタル教員の支援 
(7)
 デジタル創造教育の拡充
(8)
教育情報化の予算措置

どこかの政府機関の努力目標とさして変わりません。要は、いろいろな省庁や団体が「お金くれ」「法改正しろ」と言っているのを改めてまとめたに過ぎません。

で、特に「やれやれ」と思うのは、(5)と(6)です。

「研究指定校」とか、「スーパーなんとかスクール」とか、2000年代以後、文科省がよくやる方法です。限られた予算を重点配分して、特色ある学校を作って行こうというものなのでしょう。ただ、ことICTに関して言えば、こうした「重点開発」はことごとく失敗(ノウハウが普通の学校に浸透してない)ことを十分に反省するべきなのではないかと思います。

 学校の教材の選定や、教育の方法を、行政が一律に決めてトップダウンでやらせるというのはあまり好ましいことではありません。また、少数の(全国100校といっても、各県3、4校、100地域といっても、日本の市町村の総数からすれば微々たるものです)「特殊事例」をいくら積んだところで、それが面的に広がることはまずありません。

 乾燥地帯で農業をする時の定番の方法に、「センターピボット」という農法があります。Google Earthでアメリカの中西部や、サウジアラビアあたりを見ると、赤茶けた台地の上に、ピップエレキバンを並べたようなまんまるい畑が出てくるあれです。

 pod.jpg
 地理関係の方には説明は要らないかと思いますが、あれはパイプで地下水を組み上げて、長いアームを巡回させてアームが届く範囲だけ水や肥料が行き届き、円運動に合わせて畑が丸くなります。
 丸い畑同士がつながることはありませんし、つなげることも念頭にありません。また、アームを回す動力源が(電気など)がなくなったり、組み上げる地下水が枯渇したら、畑はあっという間に荒地に戻ります。畑を広げるにはどうするか、ひたすら「次の井戸」を掘って、新たに設備を作るしかありません。

 今、大勢を占めている「デジタル教科書」普及論議は、まさにこの「センターピボット」です。重点的に「畑」にするところを決め、莫大な投資をしてネット回線や端末を用意する。しかしそれが隣の畑に面的な広がりを持って行く可能性はありませんし、そこで育った種子(成果)が、”普通の畑”に根付いていくことはまずないと思われます。いつまでたっても「先駆的な実践」の域を超えないのはなぜか?よく考えたうえで「八策」やらなんやらを見直すべきだと思います。

 古来、「灌漑」は、まず水源から水を引っ張ってくることでした。水を引きやすいところを探し、水路をつなぎます。一度つないでしまえば対して動力も要りません。上流から下流へ、ノウハウや知識がじわじわと伝わっていく、「棚田」のような発展が理想です。「重点校100校」や「スーパー教員」制度には、こうした「緩やかな広がり」が、全く期待できないのです。

tanada.jpg

 機械を一切否定して、鍬鋤の農法にこだわれと言っているわけではありません
「モーターを使って水を汲み上げる」「情報」という肥料を教育という畑に行き渡らせて収穫を上げるという目的を達成するうえで、「一人一台タブレット」「拠点地域やリーダー教員を置く」といった手法はあまりにも非効率だと言いたいのです。そんなお金があるのなら、単純に、すべての学校に水路(=無線LANや高速回線)をひいたうえで、「普通教室に持ち込めるノートパソコン」を40台ぐらい用意したほうがよほど安上がりですし、通信会社に補助を出して、携帯電話経由のWifi接続サービスの「学校プラン」みたいなものを作ってもらったほうがよほど良いかとおもいます(各教育委員会の持つ、やたらに制限が多い上に不安定な専用サーバーよりも効率的ですし、ウイルス等の管理コストも下がります)。

 学会が行われる佐賀県では、一昨年から、「高校の新入生全員に、一人一台タブレットコンピューターを持たせる」(買ってもらう)ということで、インフラを整備してきました。3つの異なる端末を別々の学校で試す実験(3つ一緒に試すべきだったのではないかと思いますけど)を経た上で、来年度、全員にWindows8のタブレットをもたせます。・・・私が作っている「デジタル地図帳」のアプリがiPadでしか動かないから恨み節をいうわけではないですが、この発表を聞いたとき(今年の7月)、ちょっとがっかりしました。
 今のところ、そのWindows8で何をするのか、地理関係ではどんなことをやるのかという情報は全くわかりません。できれば、各学校に1、2台からでいいので、iPadを入れてもらい、「生徒のWindowsで作った地図を、iPadで持ち運ぶ」ような方法も考えて欲しいと思います。正直言って、フィールドワークにWindowsタブレットはまだまだ使えません。一方、iPadで動く廉価なGISソフトはほとんどありません。「iPadかWindowsか?」のセンターピボットではなく、両者を有機的につなぐような工夫を提案できればと思います。多くが所持している「Androidのスマホ」だって連動してもいいと思うのです。

 このように、いちいち「お上」になんでもおねだりするのではなく、市井の人々でできることは出来ると思います。また、「いかにお金を引っ張り出してくるか?」ではなくて、「いかにお金をかけずに広くき渡らせることができるのか?」という発想に欠けています。

  先進国にキャッチアップするために莫大な(かつ非効率な)お金をかけたとしても、せいぜい「追いついた」(相手はさらに先・・・?)ですが、最初から
「お金をかけずにここまでやり、広く行き渡らせる」ことができれば、「ああ、これならうちの国でもできるやん」ということで、知恵を求めに来る人も増えると思います。国力やら、取り戻すやら、いろいろと勇ましいことを言いつつ、無い袖を振りまくっている政権ですが、そろそろ分配(バラマキ)から脱して、知恵を絞って欲しいものだと思います。

 と、いうわけで、長々書きましたけど、多分、週末の学会でもこの言葉を何度か口にすると思います。

「デジタル地図帳は、いわゆるデジタル教科書とは、似て非なるものです!」

例によって“ほぼ無料”(端末代を除いては)、”砂利道な通信環境”という、公立学校的な環境の中で、ある程度使えそうなシステムができてまいりました。学会が終わったらまた資料をアップします。
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posted by いとちり at 20:15| Comment(0) | TrackBack(0) | いとちりのコンセプト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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