社会普及と連携」でのコメントのスライドをアップします。発表者と発表タイトルは以下の通りです。
<趣旨説明>
●目代邦康(自然保護助成基金)
●山田晴通(東京経済大):「ウィキペディアと地理学教育の連携の可能性」
●谷謙二(埼玉大):「地理学関連ソフトウェア・Webサービスの開発・公開とユーザー対応」
●古橋大地(東京大):「デジタル世代にとって地理学はリアルとネットをつなぐ架け橋」
●齋藤仁(学振PD・東京大)・松山洋(首都大):SWING systemを用いた2種類の降雨イベントのリアルタイムモニタリング−平成23年台風12号による紀伊半島での土砂災害を事例に
●目代邦康(自然保護助成基金):インターネットを用いた日本の学協会の情報発信
●苅谷愛彦(専修大)ほか:E-journal GEO−その現状と課題
〈コメント〉11:05 伊藤智章(静岡県立吉原高)
〈総合討論〉
ご覧のとおり、「ICTの地理」に関して、第一線で活躍されている蒼々たる顔ぶれがそろいました。いわば、「各チーム(分野)のエース級」が繰り出す直球を、「監督さん」(オーガナイザー)の意をくんでどうさばくかという「キャッチャー」役だったわけですが、まあいろいろと頭を使う試合でした。
「学問分野および学会の情報発信に、ICTは重要だ。もっと積極的に情報発信するべきだ」ということは、なにもこのようなシンポジウムを開かなくてもわかりきっている事なのですが、地理学がICTを使って発信する情報の量や質(届けるための有効な手段を講じているかという意味での)で、他の学問分野に比べて大きく後れを取っていること、またそれを克服するための努力(例えば、使いやすいプログラムを作って公開する、Wikipediaなど、公共性の高いサイトの内容を充実させ、誤りをせっせと直す、わかりやすい情報をWebサイトを通じて発信するなど)をしても、「学会的に」あまり評価されることはないという認識共有できたのではないかと思います。
スライド内の概念を引用するならば、Y=ax+bの中で、学会的な評価(最たるものは、常勤かつ社会的地位の高いキャリアの獲得)に直接かかわるのはX(研究業績=論文)の中身と数であり、いくらa(ICT等を使って伝えるための方法の工夫)やb(わかりやすい言葉や教育方法の工夫)を凝らしてY(社会への認知度や影響度)を上げても、褒められることこそあれ、それがキャリアパスにはならないということです。
”a"作りの第一線で活躍されている先生方や、私のようにありとあらゆる学問の成果に”b”をつけることを生業としているような人間は、既に「飯のタネ」はありますので、よいといえばよいのですが、これから研究職なり教育職を目指そうとする若い人たちが、Xの量産方法のみに重きを置くあまり、Yやaやbに十分気を配らない、あるいは問題意識を持ってaやbを工夫しても、正当に評価されず、冷や飯を食い続けてしまうようでは、「地理学」の未来はそんなに明るくないのではないかと思いました。
Y=X (と思っていれば済む)時代は終わりました。いい研究さえしていれば、社会がそれを敬意をもって受け入れ、世間の動向には関心を持たずに黙々と研究(の修行)をしていれば職業が保障される時代は過ぎ去っています。たとえXが小さくても、がんがんaをかけて世に問うべきだと思いますし、「いい研究をしているのに、どうもYが小さいな」と思うのならば、bが足りない可能性が高いので、しかるべき場でわかりやすい言葉で補足していく、あるいは学校教員やマスコミ関係者など、「bのプロ」と協力するなどの姿勢が必要だと思います。
もちろん、bの担い手である我々教員も、ただ単にbの乱発(マシンガントーク)に走るのではなく、Xそのものの価値を探り、上手にaをかけ、その上で補足としてbを足すのが理想です。「しゃべりすぎず、説明しすぎずに、黙って考えさせる」ことが、ICT教材時代に自分自身に課す課題でもあります。
「若手よ、もっとe-Journalに投稿を」という発言がありましたので、もう一つ、ホームフィールドを増やせればと思います。次号のe-Journal Geoは、地理教育特集で、地理教育から見た日本のGIS(地理情報システム)に関するレビューを書いた拙稿が載ります。またご笑覧頂ければと思います。
【リンク】
e-Journal Geo
http://www.jstage.jst.go.jp/browse/ejgeo/_vols/-char/ja
日本地理学会の電子版機関誌。「一般向けに、わかりやすい内容と表現」がモットーだが、良くも悪くも「学術的」である上、その存在を知らない大学院生がいたほど。だからと言ってあまりにも「噛み砕いた表現」になってしまうのも違和感があるが・・・。
外国の科学系雑誌の電子版のように、載ること自体がステイタス(紙版と同等に)となり、発表された内容が世界中の新聞の科学面を飾るようにするためには、個々の研究者だけでなく、学会自身の広報・マーケティング戦略が必要だと思います。
【プレゼンスライドはこちら】

20120329.pdf