2011年02月03日

静岡のエビアン?「水の地理学」その2

 今日の日経新聞です。

TOKAI、中国で水宅配 8月から富裕層向け
2011/2/3 0:54
 TOKAIはミネラル水の宅配(アクア)事業で中国に進出する。富士山のふもとで取水した水を中国に輸出、日本の大手宅配業者と組み、会員制で販売する。安全性を求める富裕層に高付加価値商品として売り込む。8月にまず上海で始め、順次エリアを拡大する。初年度の2012年3月期に5億円、13年3月期に10億円の売り上げを目指す。
 中国での事業展開を前に、3月に上海に連絡事務所を開設し、2人の駐在員を置く。12年度には現地法人の設立を予定する。さらに13年4月に杭州(浙江省)、14年4月に広州(広東省)での事業展開も計画している。
 中国に進出済みの大手宅配業者に宅配のほか、輸入、倉庫管理業務などを委託。代引き方式で販売する。日本式の時間指定、留守時の再配送などを取り入れ、顧客の信頼を得ていく。コールセンター業務も、日本企業の現地子会社を通じて展開していく予定だ。
 日本国内ではサーバー貸し出し方式を取り入れているが、中国の富裕層はすでにサーバーを持っているケースが多いため、水のボトル販売を中心にする。
 販売価格は12リットルで2400円前後。中国で130〜400円程度の一般的なボトル水と比べ高価だが、同社は「中国では水道水の水質を信用していない人が多い。『富士山』のブランド力とミネラル水であることを生かし、高所得層にターゲットを絞れば需要は開拓できる」とみる。
 会員制として、カタログを配布して注文を受け付ける。カタログにはミネラル水以外に、日本製のお茶、酒、コーヒーなどを掲載することも検討している。日本からの進出企業の中からパートナーを指定、これらの企業と関係を持つ現地のガス・電力会社、ゴルフクラブ、スポーツジムなどの代理店とともに会員の獲得を委ねる。

 TOKAIは07年秋にアクア事業を始めた。10年3月時点での売り上げは21億円。現在は静岡県内で事業を手掛けているが、今年4月からは全国でも展開する。



 TOKAIと言う名を聞いて、若い静岡県人(20代以下)は、「ああ、ソフトバンクの店を出してるところね」とか、「ああ、CATVの会社ね」という人が多いかと思いますが、私らぐらい(30代後半以上)の人間は、「東海ガス」と言われた方がよくわかります。

 静岡県は、「東海地震」に備えているのか、「都市ガス」と「下水道」の普及が割と進んでいない地域でありまして(ずたずたになったらどうにもならないのは阪神淡路大震災で証明済み)、今でも「プロパンガス」「浄化槽(or汲み取り便所)」を使っている家庭が結構多いのが特徴です。ですから、幼少期の記憶として
「ボンベを転がす東海ガスのおっちゃん(&エレベーター付きのトラック)」と、「バキュームカー」に親しみを持っている人が多いと思います。
 とはいえ、やっぱり都市ガス&下水道の時代でありまして、
「ガスボンベ独立採算制」の家も少なくなりつつあります。安全靴を履いて、傾けながらボンベを転がすおにーさん&トラックの出番もだんだん少なくなってくる中、会社が目をつけたのが「水の宅配」だったと私は解釈しています。インフラも、スタッフもそのままに、ボンベの中身をガスから水へ・・・・うーん、頭いいなあ。
 最近、身の回りでもこの「水の宅配」トラックをよく見かけます。正直、「水道水がこんなに美味しいのに、だれが買うんだろうか?」と思って見ていたのですが、静岡県内だけで累計売上21億とは、「ウォータービジネス恐るべし」ですね。満を持しての「中国進出」となるわけで、まあ人によっては
「また中国の胃袋に飲まれるのか!」なんて過剰反応する人もいるかもしれませんが、私は、日本のウォータービジネスが世界に通用するかどうかの重要なテストケースになると思ってこのニュースを見ました。

 ここで、比較に出したいのがフランスの世界的ミネラルウォーターメーカーの「エビアン」です。日本語版もありますが、この会社が
「水源地の環境保全」に莫大な投資と神経を注いでいるのは有名な話ですね。
単に水質をチェックし、開発を禁止するだけでなく、周辺住民が伝統的な生活と環境を守っていける為の支援をしたり、次世代に向けた教育プログラムを作るとか、実に様々なことをしています。世界中の消費者は、そうした取り組みや姿勢を含めて企業に信頼を寄せるからこそ、ランナーが下げても様になるわけですし、そこそこのお値段でもみんな手を出すわけです。

【水源の保護=エビアン】
http://www.evian.co.jp/environment/protection/

 最近、水に関する本を立て続けに読んでいますが、ウォータービジネスは、「タダ同然で手に入る水に付加価値をつけて高く売りつける=水商売」に安住してしまってはいけないと思います。「自分の土地の井戸なんだから、好きに汲ませろ」ということで、それこそ「湯水のように」富士山の伏流水を消費した結果、地下水の環境が大きく変わってしまったのは、先日講じた「水の地理学」でふれたとおりです。
(→いとちり2011年1月27日)
 
 
地元の会社が、中国という、巨大なマーケットに乗り込んでいく事に関しては、素直に頑張って欲しいと思います。ただ、「富士山をしょって」行くからには、富士山の水が置かれている環境を伝え、持続可能な形で利用するために、地元企業としてどんな取り組みをしていくのかをしっかりと広報してほしいものだと思います。
  中国の人だって眼は厳しいですから、単に
「富士山ブランド」を前面に出したところでそうそう飛びつくものではないと思います。それは、「ゲイシャ・フジヤマ」イメージだけで欧米にPRしようとするくらい安直なことです。何億円稼いでくるか知りませんが、利益の何割かは是非、水源地の環境改善に役立ててほしいと思います。また、いくら需要があるからといって、「大増産」に踏み切らず、調整に努めて欲しいものです。
 TOKAIさん、「静岡のエビアン」になれればいいですね。
posted by いとちり at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | City&Mt.富士 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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