あけましておめでとうございます。
年末年始、一切パソコンに触れられない環境に身を置き、ひたすら本ばかり読んでいました。年に1度はこういう生活もよいものです。
さて、今年の抱負といいますか、所感を書きます。
「地理の教育」の視点から色々書いているこのブログ、5年目に入ります。
業界の皆さんには言うまでもない事ですが、地理教育は、マイナーの域を抜け出せないと言いますか、今も絶滅の危機から抜け出せていません。これは冗談でも何でもなく、「履修する(させてもらえる)人間が減る(減らされる)→専攻する人間も減る→指導者が減る→教えられる人がいないから、開講しない」という負のスパイラルから抜け出せていません。「高校地理」の危機は目を覆わんばかりです。特に、人材の確保は深刻です。「センター試験」で各大学が課す科目の割り振りをちょこっと変えるだけで息の根は止まります。問題集を見て明らかなように、地理はあまりにもあの4択試験に依存しすぎているのをなんとかしなければなりません。
また、人材育成、人材獲得の問題も深刻です。
我が静岡県では、全国的にも珍しく、高校の社会科(地歴・公民科)を科目別に採用します。インターネットで合格発表をしますので、どの科目で何人採用しているかが分かります。
例年、40〜50名ぐらいが受験します、1次試験の結果、4名が合格。
http://www.pref.shizuoka.jp/a_happyou/kyouiku/kyouin_itiji_23.html
2次試験で絞り込まれて、今年もたった1名が合格しました。
http://www.pref.shizuoka.jp/a_happyou/kyouiku/kyouin_2ji_23.html
私の時も1名。ここ10年ぐらい、基本的に、静岡県の地理教員には「同期」がいません。
他と比べてみると、
高校日本史4名 高校世界史 4名 高校政治経済3名 高校数学20名 高校物理5名 高校生物6名 高校音楽1名 高校美術3名 高校家庭科4名 高校農業3名 高校機械2名 高校土木2名 高校商業7名 高校情報1名 高校福祉3名
実業高校の専門科目ですら複数名採っているにもかかわらず、どんな学校でも学ぶ機会(権利)がある(はず)の高校地理が1名。ちなみに、理科の「地学」は最初から募集がありませんでした。
主に文系の生徒の履修者が多い高校生物で6名を採用しているにも関わらず、理系に選択者が多い高校地理は1名。必修の現代社会を持つ事も期待される政治経済で3名。選択科目(そのうち必修化?)の日本史で4名の採用があるのに高校地理は1名。発言力というか、政治力というか、このアンバランスに対しては、静岡県の現役地理教員はもっと物申してもいいのではないでしょうか?少なくとも1次試験で4名を通しているのですから、もっと取ってもいいはずです。
私も若いころ、1度2次試験で落っこちていますので(3→1の選抜で)、あの屈辱、無力感は相当なものがありました。しかも、「2次で落ちたんだから、講師等、条件のいい仕事が来るだろう」なんてたかをくくっていたのですが、全くありませんでした。静岡に仕事はなく、日本をぐるっと半周して、戻ってくるのに更に数年を要しました。「年越し派遣」じゃないですが、勤めている講師の職場をすぱっと切られて年度末を迎える人たちのことを思うと、毎年3学期は胸が痛みます。
一度正社員になってしまうと、契約社員時代の苦労はふっと忘れてしまうもの。これは教員の世界も一緒です。特に、厳しい倍率の試験をかいくぐると、妙な「エリート意識」がついてしまうものだと自制しなければなりません。確かに、倍率50〜60倍の試験をくぐりぬけて、県下でたった一人の合格者になるというのはすごいことです。しかし、その後もずっと「採用1人」の状態に何とも思わないのは罪です。
現に、現場では地理を教えられる(教えたいと思う)教員はどんどん減っていて、なおかつ「地理の講師が出来る」という若者も減っています。昨年も、一昨年も、その前の年も、頼まれて他校の地理の非常勤講師を探しましたが、最近は「地理学科を出ていても、高校時代に地理を習っていない」という学生さんが増え、特に「進学校(の方が地理のコマ数が多く、講師の需要が発生しやすい)はちょっと・・・・。」ということで、「該当なし」のお返事を頂くことが多くなりました。「雇用のミスマッチ」はここでも発生しています。
「いきなり常勤講師」というような美味しい話はめったにありませんが、「地理の講師」市場自体は、結構売り手市場です。「地元じゃないと・・・」とか、「非常勤じゃねぇ・・・」という気持ちは非常によくわかりますが、他県でもどこでも、まずは飛び出して行って欲しいと思いますし、静岡県にも飛び込んでできて頂きたい。また、「地理の講師が欲しいけど、あてがない」という先生方、あきらめる前に情報を発信していただければと思います。私も、何か微力が尽くせるかもしれません。
いきなり採用数を増やすのは難しいかもしれませんし、批判ばかりしていても始まりません。ただ、状況が改善されるまで、有能な若者をいかにつなぎとめておくか、地理教育界にとって火急の問題だと思います。来年は、いよいよ新しい学習指導要領(かなりリニューアルされた地理Aの登場)が控えています。面白い授業を浸透させるには、周到な準備と、人材の確保が欠かせません。
地理教育という「レア」なテーマですが、今年もどんどん情報発信をしていけたらと思っています。
幸い、昨年を上回る形で、今年は雑誌の連載等のお話を頂いています。
また紙のメディア等でお目にかかる機会も増えますが、今年も1年、「いとちり」をよろしくお願いします。
2011年01月04日
この記事へのトラックバック
少し遠いですが静岡でも飛び込みたい気持ちです。
私もいとちりさんの仰るように地理教育の危機を感じております。
ですが地理はこれからの地域、日本、世界を考える最大の契機を与える科目だと確信しています。そんな重大で素敵な使命を抱えた地理の再復興のために僕も奮起したいです!!
これからもブログ応援させていただきます(^o^)/