相原 正道著:2007年5月 ダイヤモンド社 175p
筆者は私とほぼ同世代のマーケティングプロデューサー。スポーツ関係の仕事を中心にされ、金属やITの専門家ではありません。しかし、丹念な取材に基づいて、「静脈ビジネス」と言われる地味な業界の現状について熱く語っています。
本書に出てくる「横浜金属」社の初代は、映画の撮影所から出る大量の廃フィルムと現像液から銀を取り出すことから身を起こしました。歯科医で出る金歯、銀歯の削りカスを丹念に集め、パソコンやコピー機をせっせとばらして、会社は成長します。取り出した金を売るのではなく、持ち主に返して「加工賃」で商売する手堅いビジネスモデルには、相場に左右されない知恵が見て取れます。ちょうど、証券会社が株の値段の乱高下に関わらずお客に売買させた手数料で利益を挙げるのに似ています。
「人件費対策」という、“よこしまな”考えから雇った知的障害者の従業員が解体作業に熟達していく過程や、製品(金の延べ棒)の品質が国際的に認知される過程など、「美談」が満載ですが、忘れてならないのは、「都市の金鉱脈」を作っているのはほかならぬ私達自身だということです。
地理の「鉱工業」の話題に、経済の仕組みのテキストに、小論文指導のネタに、読みやすく、引き出しの多い本でお勧めです。